感染症リスクが高まる秋冬、免疫力をアップさせるポイントは腸内発酵にある―――そんな科学的根拠がいろいろ明らかになってきた。
腸の奥からの健康を考える研究会は、ことし10月にオンラインセミナー「ニューノーマル時代のヨーグルト ビフィズス菌×イヌリンの体内(腸内)発酵がもたらす効果~体内(腸内)発酵のメカニズムと免疫への影響」を実施。
発酵食品の代表的製品 ヨーグルトがもつビフィズス菌とイヌリンによる体内(腸内)発酵がもたらす効果について発表した。
同研究会 松井輝明 座長(帝京平成大学 健康メディカル学部 教授)はまず「近年、腸内フローラの研究がすすみ、免疫力を高めるには大腸内で腸内フローラによりつくられる短鎖脂肪酸が重要で、摂取する菌とそのエサとなる水溶性食物繊維のかけ合わせで、短鎖脂肪酸産生量に大きな違いがあることがわかってきた」と報告。
発酵とは、微生物が人間に有益な有機物を生成する過程のこと。また短鎖脂肪酸とは、人間にとって有用な、酢酸・プロピオン酸・酪酸などの物質のこと。今回の発表では、免疫力アップにむけたポイントについてこう説明した。
免疫力アップには、体内(腸内)発酵が重要
セミナー前半で同研究会 松井輝明 座長は、免疫力アップには体内(腸内)発酵の重要と伝え、発酵食品の代表としてヨーグルトを挙げてこう解説した。
「ヨーグルトは、牛乳を発酵させたもので、牛乳に添加された乳酸菌が牛乳中の乳糖を発酵して乳酸をつくり出す。これと同じ現象が、わたしたちの体内(腸内)でも起きている」
「大腸内で有用菌が水溶性食物繊維などを発酵し、短鎖脂肪酸などの有用物質をつくり出す。これが体内(腸内)発酵」
「短鎖脂肪酸は、血液により全身に運ばれ、免疫細胞に働きかけることで免疫力を向上させることをはじめ、腸内の炎症抑制やそのほか、さまざまな健康効果がある」
「短鎖脂肪酸をつくるには、『大腸で働く有用菌』と『有用菌のエサとなる水溶性食物繊維』の摂取が重要」(松井 座長)
体内(腸内)発酵を起こすポイント1 大腸で働く有用菌
「腸内細菌の多くは大腸に棲んでおり、有用菌や有害菌が日々勢力争いをしている。代表的な有用菌である『ビフィズス菌』と『乳酸菌』は大きく性質が異なる」
「ビフィズス菌は、大腸に棲息し短鎖脂肪酸をつくり出す。また乳酸菌は、主に小腸に棲み乳酸をつくり出す。さらに、日本人の腸内細菌叢は他国と比べてビフィズス菌の割合が高く、ビフィズス菌は日本人に適した菌である」(松井 座長)
体内(腸内)発酵を起こすポイント2 有用菌のエサ=水溶性食物繊維
同研究会 松井輝明 座長はまた、野菜に含まれる食物繊維の多くは有用菌のエサになりにくい不溶性食物繊維であるのに対し、有用菌のエサとなる水溶性食物繊維は根菜や海藻などに含まれていることを紹介。
さらに、同じ水溶性食物繊維でも体内(腸内)発酵力(短鎖脂肪酸産生量)には違いがあり、世界で最もメジャーな水溶性食物繊維「イヌリン」の優れた体内(腸内)発酵力を他の水溶性食物繊維と比べて解説した。
インフルエンザに感染したマウス試験の結果を交えながら、「イヌリンは短鎖脂肪酸を多く産生し免疫力を高めるだけでなく、免疫暴走を制御し、生存率を向上させるという研究報告もある」と説明。
―――そこで注目されているヨーグルトが、「ビフィズス菌×イヌリン入り」ヨーグルト
IgA抗体には短鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸には水溶性食物繊維が重要
セミナー後半に登壇したメタジェン代表取締役社長 福田真嗣CEO(慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授)は、短鎖脂肪酸が免疫力に影響するメカニズムについて解説。
「病原体の感染を防御するのは粘膜免疫。それを担うのが IgA抗体。その特徴は、全身の粘膜で作用し、細菌やウイルスの侵入を防ぐ役割がある」
「また、抗原特異性が広く、さまざまなウイルスに結合することが可能である。IgA抗体を増やすには、短鎖脂肪酸が大腸内でつくられることが重要」
「短鎖脂肪酸を増やすには、腸内細菌のエサになるMACs(水溶性食物繊維やオリゴ糖などの腸内細菌のエサになる炭水化物群の総称)などの摂取が大きく関連している」(福田 CEO)
ビフィズス菌×イヌリン入りヨーグルトで免疫力アップ
さらに、乳酸菌のみが含まれる「普通のヨーグルト」と、乳酸菌のほかに大腸で働くビフィズス菌や、そのエサとなる水溶性食物繊維イヌリンを添加した「ビフィズス菌×イヌリン入りヨーグルト」を比較した結果をこう伝えた。
「短鎖脂肪酸産生量や腸内細菌叢への影響を比較したところ、ビフィズス菌×イヌリン入りヨーグルトが、普通のヨーグルトよりも、酢酸量や総短鎖脂肪酸量が増加し、さらに大腸で働く有用菌であるビフィズス菌も増加した」(福田 CEO)
福田 CEOが監修し帝人が実施した in vitro 腸内細菌叢培養試験の結果について、「ビフィズス菌とイヌリンを添加したヨーグルトの方が普通のヨーグルトよりも腸内細菌叢での発酵を促すことが、今回の in vitro 腸内細菌叢培養試験でわかった」と説明。
「乳酸菌のみが含まれる普通のヨーグルトの摂取では効果を十分に得られない人でも、ビフィズス菌とイヌリンが添加されたヨーグルトを摂取することによって、その効果を得られる人の割合は増えると考えられる」
福田 CEOは最後に、「ヨーグルトに免疫力が求められ、短鎖脂肪酸を増やすことの重要性が今後さらに増していくことが想定されるなか、普通のヨーグルトに入っている乳酸菌に加えてビフィズス菌やイヌリンなどの腸内細菌のエサ(MACs)を摂取できるものが、ニューノーマル時代のヨーグルトといえる」と伝えていた。
◆腸の奥からの健康を考える研究会
https://cholabo.org/