資生堂は、表皮で分泌されるタンパク質、インターロイキン34（IL-34）が減少すると、免疫細胞として知られる2種類のマクロファージ（M1マクロファージ、M2マクロファージ）のバランス（M1/M2バランス）が崩れることを新たに発見した。
さらに資生堂は、表皮細胞のIL-34産生を増やし、マクロファージのM1/M2バランスを整える効果が期待できる成分として、クリーピングタイム抽出液を見出した。
資生堂はこれまで、皮膚内で生じる慢性炎症が老化を促進する「インフラマエイジング」（Inflammaging：炎症老化）の発生にM1/M2バランスの崩れが関与していることを見出して以降、M1/M2バランスの崩れがコラーゲンの産生・分解・除去など、一連のコラーゲン代謝に関与していることも明らかにしてきた。
新しいビューティーケアへの可能性
今回、M1/M2バランスを根本的に調節するメカニズムの一端が解明されたことは重要な知見で、新たなソリューションへの応用が期待できる。
同研究の成果の一部は、第22回日本抗加齢医学会総会（2022/6/17-19）で発表し、発表者の堀場聡研究員が最優秀演題賞を受賞。10月20日に渋谷ヒカリエで開かれた「資生堂イノベーションカンファレンス 2022 ～知と体験の融合～」でも詳しく解説した。
この研究は、『DYNAMIC HARMONY』のInside/Outsideという資生堂独自のR＆D理念でアプローチ。メディカル領域でも注目されている免疫細胞の一種、マクロファージのバランスが皮膚老化に関わるメカニズムを明らかにし、ユーザーのさまざまな肌悩みに対する新しいビューティーケアを提案していくという。
IL-34の減少で崩れるマクロファージバランス
皮膚でM1/M2バランスの崩れを引き起こす因子を網羅的に探索するために、国際的データベース「GTEx Portal」に掲載されているマチュア層（60代）約200名分のヒトの皮膚データを用いて、バイオインフォマティクス的手法によって解析。
皮膚の露光部と非露光部を比較し、遺伝子発現量に有意な差があり、かつマクロファージとの関連の可能性が強く示される因子を探索したところ、IL-34が見出された。
そこで資生堂は、IL-34がM1/M2バランスに強く影響を与えるのではないかと考え、IL-34は、資生堂のこれまでの研究成果で健やかな肌の実現に重要な役割を果たすことが知られている因子であることから、実際にヒトの皮膚（露光部）で若齢層（30代）とマチュア層（70代）のIL-34の発現を比較。
その結果、マチュア層ではIL-34の発現量が顕著に低下していることが確認できた。
また、M1/M2バランスとの関連をヒトの皮膚組織において調べると、IL-34陽性表皮細胞数が多い皮膚では、若齢層の皮膚に見られるM1/M2バランスと同様であり、さらに、IL-34をマクロファージに添加することによって、M2マクロファージへの分化が濃度依存的に促進されることが明らかになった。
クリーピングタイム抽出液でIL-34産生促進
さらに資生堂は今回、M1/M2バランスの崩れとの関連が確認されたIL-34の産生を促す成分を探索し、複数の候補成分の中から、とくに優れた効果を有する成分として、クリーピングタイム抽出液を見出した。
―――資生堂は今後、美容におけるM1/M2マクロファージのバランスの重要性に関して研究をリードし、さらに今後もマクロファージとさまざまな肌悩みとの関連についての知見を積極的に深め、新たなソリューションを提案していくという。
「資生堂イノベーションカンファレンス 2022 ～知と体験の融合～」（10/20 渋谷ヒカリエ）に登壇した、資生堂 エグゼクティブオフィサー チーフブランドイノベーションオフィサー チーフテクノロジーオフィサー 岡部義昭 常務、資生堂 みらい開発研究所 江連智暢 フェロー、堀場聡 研究員、遠山麻依 研究員、資生堂 ブランド価値開発研究所 横尾美星 所員
