ここは渋谷のどまんなか。京王井の頭線とJR渋谷駅を結ぶ渋谷マークシティ連絡通路。その巨大な橋脚に、新進気鋭アーティストたちのアートが出現した。

これ、渋谷の公共空間での作品公開から年間を通じて複合展開する、新たな都市型パブリックアートプロジェクト「YOU FEEL」のなかの作品群。

これら「YOU FEEL」作品群は、「アーティストが挑戦できる環境をつくること、発中から公共空間を豊かにすること、『人の心を楽しませ、人が歩きたくなる街』の実現をめざした、アーティスト公募プラットフォーム「TYPELESS」の一環。

なぜ、丸柱橋脚に、アーティストたちのクリエイティブ作品が出現したか。

(photo:Ryota Hashimoto)

―――このプロジェクトを担う 渋谷駅前エリアマネジメント事務局 吉田七海統 氏は、このアーティスト公募プラットフォーム「TYPELESS」に込めた想い、公募にあたって伝えたいメッセージを、こう語る。

「多様な価値観を許容する土壌がある渋谷から発信」

「芸術発信拠点が多く存在する渋谷は、さまざまなカルチャーをミックスすることで生まれた作品や、多様な価値観を許容する土壌があります。

「TYPELESS」という言葉には、型にとらわれず、固定観念から脱却・再構築していくイメージを込めています。

マジョリティやマイノリティという括りではなく、アーティスト一人ひとりが持つ情熱や違和感、問題意識から生まれる作品を発信してもらい、作品に出会った人にとって、新しい好奇心が広がる機会となるようなアートを、渋谷駅前エリアマネジメントは皆様に求めます」

―――そんな渋谷駅前エリアマネジメントの想いに共感したアーティストたちが参画し、アーティスト支援やアートプロジェクト企画を手がけてきた Embedded Blue(片岡奨 代表取締役)がキュレーション・企画制作し、選ばれた4人のアートが、ここ渋谷マークシティの丸柱橋脚に出現したというわけだ。

ではなぜ、今回はこの橋脚が新進気鋭アーティストたちのキャンバスになったのか。

「アートが現れることによる体験価値、社会課題との接続と、渋谷の街に新しいアートのあり方が根付く契機に」

「渋谷の駅前は一見雑多な景色で気付きづらいですが、今回アートの掲出を行う場所は、従来落書き被害に悩まされていました。

昨年度、渋谷区様のアロープロジェクトの取組を通じて被害が減り、この場所に新しい景観をつくることが社会課題の解決にもつながるという、アートの新しい可能性にも気付くことができました。

もともと落書きがあった場所にアートが現れることで、この場所を歩く方々に『駅前の空間に現れた作品を見る』という共通の体験を提供することになります。

アートは同じものでも、人によって異なる感覚を持たせます。

ある人から見たら不在が前提となっている属性や価値観も、可視化・受容される土壌が渋谷にはあるのではないでしょうか。

「TYPELESS」という言葉には、型にとらわれず、固定観念から脱却・再構築していくイメージを込めました。

都市景観にアートが現れることによる体験価値の創出や、社会課題との接続と、渋谷の街に新しいアートのあり方が根付く契機になることをめざします」(渋谷駅前エリアマネジメント事務局 吉田七海統 氏)

―――また、キュレーション・企画制作を担当した Embedded Blue Inc. 片岡奨 代表は、都市型パブリックアートプロジェクト「YOU FEEL」に込める想いについて、こう語る。

「公共空間というメディアを通じて、社会とアートとのつながりを眺める」

「本企画は、街とアーティストが共創するアートプロジェクトとして、公共空間というメディアを通じて、社会とアートとのつながりを眺めることが設計に含まれています。

そのつながりとは、アートがそこにあることによって変わりうるすべての物事を指します。

社会課題として挙げられる当該エリアの落書き問題や、通行する人々の振る舞いの変化、また、作品に対峙したあなたの中に生まれる情動もその一部です。

ひとついえるのはどちらも一部であり、切り離すことはできない事柄です。

だからこそ、これからこの場所で制作するわたしたちは、このすべての営みを飲み込んだ「街」という存在と対峙し、感覚や感性をもって、訴えや問いと向き合う姿勢を崩さずいようと考えています。

今後の企画の展開によってつながるものや、変わるもの、それらを眺めるかのようにありのまま受け入れること自体、この時代を生きる私たちにとって重要な主題なのです」(キュレーション・企画制作担当 Embedded Blue Inc. 片岡奨 代表取締役/プロデューサー)

―――ということで、渋谷に出現した都市型パブリックアートプロジェクト「YOU FEEL」を描くアーティストたちの作品を、ここでみていこう。

KAZUSA MATSUYAMA

「今回のプロジェクトを通して、現代に生きる1人の作家として新たな未来や可能性への活力を喚起できるような作品を街中に落とし込み、街や人と共存させることができればと思っています。

多種多様な人、モノが行き交う渋谷という街で作品と巡り合い1人でも多くの方に非日常を感じていただく機会になれば幸いです」

―――1992年生まれ東京出身。表情の歪みや抽象的な描写によって、表面的な喜怒哀楽だけではなく本質に潜む美しさを追求する「Anonymous Portraits」(匿名性のある肖像画)シリーズを描く。一つひとつの作品から観る人によって違う感じ方や捉え方、想像の余地を残す描写で表現している。近年では日本、米国、韓国、台湾での個展開催・アートフェアへの参加に加え、Rolls Royceイベントへの作品提供など、活動の幅を広げつつ、国内外を問わず活躍している。
Instagram:https://www.instagram.com/kazusamatsuyama/

三澤亮介

「アーティストは自身をフィルターとして、生きた時代を投影する存在。

だからこそ、自分がいま描くべき、渋谷に大きく飾るべき絵を描きたい。

楽しい時も、辛い時も、自分のことが分からなくなる時も、見上げればそこに逃げ込めるような、吸い込まれるような絵だとなおいい。少なくとも、自分はそう思う」

―――1992年生まれ。立教大学映像身体学科卒業。美術家。メディアパラドックスという独自の手法を提唱し、アナログ-デジタル、写真/画像データ-絵画を制作の中で横断する。捉えられない時間の経過と人間の実体性を絵画のフォーマットの中で可視化し、自身の経験を投影したヴィジュアル構成を提示することで、固定概念の更新に挑む。作品によって現代に生きる自身の極めてパーソナルな感情や経験と、先人との記憶や時代をクロスオーバーし、普遍的な価値をスタディする機会としている。主な展示に「Tracing the night」(333 gallery,台湾,2023) 「NOH」(HOFA gallery,ギリシャ,2023)「Project the Process」(IRRITUM gallery,NY,2023)など。
Instagram:https://www.instagram.com/ryosuke_misawa_53/

新埜 康平

「人の行き交う横断歩道の柱に作品ビジュアルを展示させていただけることはとても嬉しく思います。

この街に友達同士で買い物に来た人や家族、恋人、仕事帰りや、通勤、通学の人など、様々な思いを持ち、行き交う人の中でフッと目に飛び込んだ時、少しでも気持ちが楽しくなればと思います」

―――東京生まれ。東京を拠点に活動し、展覧会などを中心に参加している。ストリートカルチャーや映画の影響を受け、仮名の人物や情景、日々の生活に根差した等身大のイメージをモチーフに制作。余白やタギング(文字)の画面構成等、様々な絵画的要素を取り入れ、日本画×ストリートをテーマに制作。Independent Tokyo 2023 小山登美夫 賞。2023年 metasequoia 2023 笹貫 淳子賞。第1回Idemitsu Art Award(旧シェル美術賞)。入選 第39回 上野の森美術館大賞展 入選。第56回 神奈川県美術展 入選。
Instagram:https://www.instagram.com/kohei_arano/

尾潟 糧天

「三年前に作家活動を開始してからずっと、東京を拠点にしながら自然を描く意味を考え続けています。

渋谷の街中で作品を展示するという試みは、そのテーマに対する思考実験の場として最適な環境だと思います。

同じ地球から生まれた存在として、海も砂漠も森も私達の身体も、必ずそこには重要な共通点があります。

街も人も常に高速で移り変わっていく中で、「今、ここ」における人と自然の接続点はどこにあるのか、どう接続していくのかを作品を通して語
れたらと考えています」

―――1994年生まれ。北海道出身。2021年から現代画家として活動を始める。北海道の自然豊かな環境で育った経験にヒントを見出し、主に海をモチーフにした作品を制作している。絵画作品を軸としつつ、自然とテクノロジーをクロスさせたデジタル作品や身体的なパフォーマンス作品など、様々なメディアを横断しながらパラレルに自然を描き出している。2022年にはShibuya Fashion Week 2022 Springに出展。主な個展に、LIFFT Concept Shop (東京)個展「鯨寄る浦、⻁伏す野辺」、2023.3 MA5 Gallery(東京) 個展 「PHYSIS」、2023.11 YOKOHAMA BAYSIDE WAREHOUSE (横浜)個展「Surges」など。そのほか、Clio Art Fair New York(ニューヨーク) 出展。
Instagram:https://www.instagram.com/ryotenogata/

―――――渋谷の街でいよいよ動き出す、アーティスト公募企画「TYPELESS」。多様な文化や価値観を持った人々が交錯するこの街で、今後、どんなアーティストの傑作が出現するか。楽しみ。

また、都市型アートプロジェクトのエキシビジョンEXHIBITION「YOU FEEL SHIBUYA」の開催も決定。4月1~7日の1週間、elephant STUDIO(東京都渋谷区渋谷2-7-4)で開催されるから、気になる人は、公式サイトをチェックして行ってみて↓↓↓
https://youfeel-artproject.com/

◆渋谷駅前エリアマネジメント協議会
https://shibuyaplusfun.com/

◆ Embedded Blue
https://www.embeddedblue.com/

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