技術が加速度的に進化している中、政治・制度がそれに追いつかないどころか、その技術進化スピードの“障害”があちこちに立ちはだかっているのが、ニッポン―――。
そんな現状に、日本の産業競争力を維持すべく、国内外の先進的な改革事例を収集し、技術革新を促進する政策・規制改革に関する調査研究・アドボカシー活動※を展開するのが、政策改革・イノベーション研究所(IIPR:Innovation Institute for Policy Reform:蔵研也 代表)。
※アドボカシー活動:一人ひとりが問題について知り、その原因について声をあげ、 解決のためにできることを訴えていくこと。この働きにより、政策を変え、不公正な社会を変えていく(国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン)
たばこと地方自治との新しい関係を議論
政策改革・イノベーション研究所(蔵研也 代表)はこれまで、中山展宏 衆議院議員(自民党・ルール形成戦略議員連盟(甘利明会長)事務局長)、田中和徳 衆議院議員(自民党税制調査会副会長・国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟会長)などとシンポジウムを開催し議論を重ねてきた。
今回は、「技術革新とハームリダクション-たばこと地方自治との新しい関係」と題し、藤井あきら 東京都議会議員、遊佐大輔 横浜市会議員らと議論し、メディアの前で語った。
―――この議論に入る前に、蔵研也 政策改革・イノベーション研究所 代表理事が異議を唱える「日本の加熱式たばこの増税」について。蔵研也 代表はこう伝えている。
「合理性 公平性 技術革新の観点から反対」
「たばこに対して特別な課税を行う理由は、たばこは食料品などのような生活必需品とは異なる特殊な嗜好品としての性格を有することにあるとされています。
しかし、数あるその他の嗜好品のなかから たばこ のみを本来過剰な課税対象とする合理的な根拠はありません。
また、2010(平成22)年度 税制改正大綱では「たばこ税については、国民の健康の観点から、たばこの消費を抑制するため、将来に向かって、税率を引き上げていく必要がある」とし、たばこ増税が行われる理由として健康目的のニュアンスが盛り込まれています。
ただし、喫煙をいますぐ一律に禁止することは、たばこ消費者が日本に数千万人単位で現実に存在している以上非現実的で、その有害性を低減するためのハームリダクション※の考え方を積極的に採用することが望ましいと考えます。
実際、2010年度以降に急速に紙巻たばこの消費が低減している理由は、加熱式たばこが普及していることが原因のひとつです。
紙巻きたばこにはすでに発がん性が明確に確認されています。
いっぽう、加熱式たばこも健康に対するリスクの存在が指摘されていますが、多くの研究機関がさまざまなエビデンスを蓄積している最中であり、ハームリダクションに寄与する技術革新に向けた取り組みが積極的に行われています。
加熱式たばこの技術革新によって、健康被害を低減するイノベーションが起こり、将来的な医療費低減にもつながる可能性があります。
2022年12月自民党税制調査会にて、防衛費増額の財源を法人税・所得税・たばこ税の3つの税目を組み合わせてまかなうという増税案でいったんの決着を見ましたが、同調査会でも拙速な議論を避けるべきとする声も強く、『2024年以降の適切な時期に増税を行う』とされています。
実際、2024年のたばこ税は加熱式たばこの税率が引き上げられて、1本あたり3円程度の段階的な値上げが行われる可能性があります。
しかし、上述の通り、たばこの消費者はすでに約2兆円の税負担を実施し、たばこのみが嗜好品として重く課税される根拠もなく、健康面などでの技術革新が期待される加熱式たばこのみを増税対象とする増税案には合理性がありません。
まして、防衛費増額を加熱式たばこの消費者に極めて偏ったかたちで負担させる理由も見出せません。
また、平時の防衛費を安易に増税に頼ることは、一国の経済力をいたずらに毀損(きそん)することにもつながります。
したがって、経済的合理性、租税負担の公平性、ハームリダクション・技術革新の観点から、2024年に可能性がある加熱式たばこの増税に対して反対します」(蔵研也 代表)
たばこ税という税収は無視できない
遊佐大輔 横浜市会議員 は、世界的な禁煙・受動喫煙防止の流れにあるなか、「横浜市をはじめ、地方自治体にはたばこ税による税収があることを忘れてはならない」という。
「横浜市の年間全体予算は3兆1500億円ほど。このなかで、たばこ税の税収額は230億円ほど。神奈川県の規制に従いながら、230億円という大きな割合の税収があることも知ってほしい」(遊佐大輔 横浜市会議員)
横浜市でたとえると、たばこ1箱(20本入 580円の場合)のたばこ税の内訳について、市たばこ税が 131円04銭(22.6%)、県たばこ税が21円40銭(3.7%)、(国の)たばこ税が136円04銭(23.5%)を占め、合計税額 357円61銭(61.7%)が税収になる。
「消費者がたばこを購入する額のほぼ6割が地方税などの納税にあたる。
最近、総裁選のとある候補者が『たばこは百害あって一利なし』なんていってたけど、いかに地方政治を知らないせいかがわかる。地方政治を知っていれば、そんなことはいわない。
「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例などに従い、しっかり分煙できる喫煙所の設置などを積極的に取り組んでいきたい」(遊佐 横浜市議)
「たばこ税収は、区市町村の税収入額が大きく、1000本あたりの税率は、東京都に入る額が1000円ほどにたいし、区市町村が6500円ほど入ってくる。電子たばこについても増税するのであれば、電子たばこからの健康被害についても、エビデンスを突き詰めていく必要がある」(藤井 都議)
いっぽうで、蔵研也 政策改革・イノベーション研究所 代表は、たばこ増税ぶんを防衛費にあてる策について、「合理性がない」と重ねる。
「たばこの消費者はすでに約2兆円もの税を負担している。たばこのみが嗜好品として重く課税される根拠もなく、健康面等での技術革新が期待される加熱式たばこのみを増税対象とする増税案には合理性がない」(蔵 代表)
監視員の人件費も無視できない
「たとえば東京都は、健康増進法・東京都受動喫煙防止条例で、厳しく取り締まっているが、路上喫煙巡回・喫煙監視員の人件費も都税で負担している。
これもいま議論されている話題のひとつで、隠れてこそこそ吸うような人たちを、路上喫煙巡回・喫煙監視員の人件費(税金)をかけて取り締まっている。
いまどき隠れてる喫煙者をみつけるために喫煙監視員を税金で雇って取り締まるなんて、世界的にみてもおかしい話」(遊佐 横浜市議)
「行政罰はイコール罰金。それは正直、人権侵害にあたる。自由な社会を担保するには、言葉のすり替えなどで、警察国家をつくるようなことはものすごく危ない。
たとえば、一時停止する交差点の影で、白バイやパトカーが隠れて見張ってるのも同じ話。『そういうことをやると警察の市民の信頼が失われるのでやめるべき』と指摘したとある都道府県知事がいたけど、こうした考えの方が健全だ」(蔵 代表)
上乗せ横出し条例は許されて緩和はダメ
「加熱式たばこも増税する話に対しては、エビデンスが担保されてないうえに、議論も整ってない時点で規制するのはおかしい」(遊佐 横浜市議)
「紙巻きたばこに対して電子たばこがどれぐらい身体に悪影響をおよぼすのかをしっかりエビデンスベースで確認しなければならない。
加熱式たばこの健康悪影響は、紙巻たばこの 1/10 程度といわれていて、かなり下がる。さらに次世代電子たばこ「ベイパー」(Vape)などになると、蒸気を吸うからさらに下がる。
これらをすべて増税対象にするのはおかしい。『これはいいもの』『これは悪いもの』と国家が押し付けるのは全体主義の危うさがある。
日本の地方自治体は、国の条例に従い“上乗せ条例”や“横出し条例”をつくるのは許されている。だけど、緩和や“減らす”といった方向は許されていない。これも問題だ」(蔵 代表)
次回は解散総選挙後
今回の「技術革新とハームリダクション-たばこと地方自治との新しい関係」なるシンポジウムでは、こんな話題も盛り上がった。
「たとえば、たばこ増税で税収をしっかり得たい自治体は、“たばこが存分に吸える地”として、しっかり分煙・喫煙設備などを整備して、愛煙家が移住するような政策をとってもいいかもしれない。
逆に“たばこ禁止”の地方自治体があったとしたら、それも移住者が増えるかもしれない。地方自治体の生き残り作戦として、こうした議論も活発になっていくといい」
政策改革・イノベーション研究所(IIPR:Innovation Institute for Policy Reform:蔵研也 代表)主催のシンポジウムは今後も継続し、次回は解散総選挙後に開くという。