ニッポンの大学は、学部生の1~2年までは教養・専門の各授業で単位数を積み、3年次で研究・専攻分野を決めて担当教官の研究室に入るという流れが一般的。
「もっと研究に集中したい」「研究分野で社会に貢献したい」という学生は、大学院への進学を選ぶ―――だいたい、国内の大学はどこもこうだった。
この当たり前だった大学の通例を打ち崩し、1年次後期から早期に研究に参画できるプログラムを始めた大学がある。
獣医学部(獣医学科・動物応用科学科)と生命・環境科学部(臨床検査技術学科・食品生命科学科・環境科学科)の2学部5学科で構成する、麻布大学。
この麻布大学 獣医学部 動物応用学科でことし9月から、1年次から研究に参画できる「実践的ジェネラリスト育成研究プログラム」が始まった。
麻布大学は、動物実践的ジェネラリスト育成にむけたこの研究プログラムを、どこよりも先に導入。学生が入学して間もないうちから「本物の研究」を経験し、研究の現場でいっしょに課題を解決していく機会を広げていくという。
「大学でやりたいこと、学びたい目標が明確にあって入学したのに、その目標に近づける研究現場に参加できず、バイトやサークル活動に勤しむうちに卒業をむかえる。学生たちはそこにあるギャップを痛感していた」と実情を語るのは、同研究プログラムを主導してきた菊水健史 教授(獣医学部 動物応用科学科)。
社会に貢献する研究に挑戦できる場、自分のチカラを試せる場に
「学生が社会に出ると、それまでの受動的教育では取得し難い資質が求められます。卒業後に待ち受ける社会は答えのない世界。そこで課題を見出し、その課題をクリアするための最善の手段を選び、コストベネフィットを考慮した上で何が最善策かを考え、得られた結果を次のステップに活かすことが必要になります」
「この課題解決力こそが、社会人として学生が身につけるべき資質です。これを学生時代に獲得させるには、学部生の基礎教育や実習だけでは難しい。また、学生自身も従来型の座学・実習だけでは、課題を克服したという達成感は得られてないと思われます」(菊水教授)
こうした実情をとらえ、1年次後期から参画できる麻布大学 実践的ジェネラリスト育成研究プログラムでは、動物にかかわるさまざまな領域を網羅できる体制、多彩な研究領域を設定。
獣医系大学での初の取り組みである STEM(Science,Technology,Engineering,Mathematics)型教育を採用し、社会人としての資質に要求されるリテラシーとコンピテンシーの向上プログラムを組み入れたという。
「研究とは、学生実験とは大きく異なります。答えのない世界で、いかに成果を生むか。そしてその成果がどれだけ社会に貢献し、また社会をよりよいものするのか、という前人未到の領域に足を踏み込むことです」
「研究活動は、課題の発見、目的の設定、それに応じた方法の探索と実践、得られた結果の整理と解釈というプロセスがあり、大学での教育の集大成です。動物応用科学科では、真の大学教育として、研究活動を活かし、そして実社会で通用する「実践者」として学生を育てて行きたいと考えています」
「麻布大学は、科学研究補助金(文部科学省)総合動物科学分野において、東京大学、近畿大学に次ぎ、北海道大学とならんで、日本で3位の地位を確立しています(H29年度)。このように国内でもトップクラスの研究であるがゆえに、参加者は真剣に取り組む必要があり、その厳しさと達成感が学生を鍛え、伸ばすことにつながります。実社会で通用する成果を生みだすこと、それこそが、麻布大学 獣医学部 動物応用科学科が提供できる貴重な体験教育のひとつになるはずです」(菊水教授)
―――どこよりも先に麻布大学が導入した、1年次後期から参画できる研究プログラム制度。すでに一定の条件を満たす学生が、希望する研究プロジェクトを選んで応募、各分野の専門家・研究者から直接指導を受けながら研究に参画中。
また同研究プログラムでは、大学院修士課程を5年間(修士2年を1年に短縮)で修了することも計画中で、これにより実践力、応用力のある学生を早期に社会に送り出し活躍させるというビジョンを描いている。
さらに今後について菊水教授は、「他学科からも参加したいという声もあることから、近いうちに学科や学部の垣根を超えて、麻布大学全体で同研究プログラムを展開していく予定」とも伝えていた。
では、どんな麻布大学生がこの研究プログラムに参画し、どんな気づきや発見、将来像が描かれ始めたか―――次は同研究プログラムに参画する1年生たちの姿をレポートする。
麻布大学動物応用科学科
実践的ジェネラリスト育成研究プログラム
https://sites.google.com/view/azabugeneralistprogram/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0