経理社員から、東証一部上場企業のグループ会社 代表取締役社長に就任した女性がいる。

彼女はどんな思いでキャリアアップを志し、どう仕事とむきあい、新しい風を起こそうとしているか―――。

笑顔で「初めましてーっ」とむかえてくれたのは、企業評価総合研究所 米澤恭子 代表取締役社長。つい先日の6月10日に社長に就任したばかり。

企業評価総合研究所は、日本M&Aセンターが100%出資する、企業評価業務を受託する専門会社。

ここでは、企業のM&A(譲渡と買収)で重要な工程となる企業評価を、公平・公正な立場から定量評価・定性評価。社内には、公認会計士や税理士などの有資格者が在籍している。

この企業評価総合研究所をたばねる米澤社長も、実は税理士。経理から税理士へ、税理士から社長へ、彼女はどんなスタートを切り、いまどこを走っているか。東京駅前の日本M&Aセンター本社で話を聞いた。

大学を卒業し保険会社、会計事務所へ…どこか満足していない感じ

立命館大学 経済学部を卒業した彼女は、新卒で保険会社へ入社。会計事務所へ転職し、決算書や記帳代行などに追われてる日々のなかで「満足していない感じ」「もっと成長する業界で働きたい」と感じ始めた。

「伸びてる会社にいないと後輩も入ってこない、ひいては自分もキャリアアップできない、と思っていました。そんなとき、『恭子ちゃんならやれるんじゃないの』と背中を押してくれたのが、大学の先輩でした」

「大学在学中に、『女性の求める企業像と企業が求める女性像のミスマッチを探る』というプロジェクトに参画して、そこで3代目の委員長を経験したんですね。そのときの初代リーダーが、その先輩だったんです」(米澤社長)

立命館大学時代の先輩からのプッシュもあり、彼女は日本M&Aセンターに転職。30代前半で結婚し産休を経て女児を授かる。

「妊娠9か月で3つ目の消費税法試験を受けた」というほどパワフルに突っ走っていたころをこう振り返る。

「一部上場会社の決算から有価証券報告書の作成は、期日厳守で、間違いが許されない。緊張感とこれまでにないやりがいを感じ、優秀な後輩もできた。日本M&Aセンターの経理という仕事が私のビジネスマンとしての原点となりました。その仕事を評価していただいたのだと思うのですが、育休明けのタイミングで社長から『企業評価部門を独立させて、専門会社化するから、いずれはそこのリーダーになってほしい』といわれ、現在の企業評価総合研究所の前身となる部署の責任者になりました。その後分社化した2016年、常務取締役に就任しました」(米澤社長)

そして、彼女は社内の経理業務から、クライアント企業の企業評価という分野へ飛び込んでいく。

ライフステージの変化にあわせた制度設計をもっと

企業評価総合研究所の常務取締役として3年間務めた彼女は、ことし6月10日に代表取締役社長に就任。

取締役から社長へとステップアップした彼女がいま、違った視点で自分の会社をみるようになったという。

「意思決定する場面が増えたのはもちろんですが、これまで以上に、社員への愛情が増しましたね。社員のためになにができるかを常に考えるようになりました」

「手を動かすことが減りましたが、いろいろと社内のプロジェクトを取りまとめたり調整したり、部下がいまなにに取り組んでどう成果が出ているか、といった視点が9割になりましたね」

「ライフステージの変化にあわせた制度設計をもっと加速させたい。在宅勤務や時差出勤などを採り入れるうえで、人事部門の人とかかわる時間も増えてきました。古巣が経理という管理部門だったせいか、親会社の管理部門スタッフにもいろいろとサポートしてくれてありがたいですよね」(米澤社長)

自分にキャップをかけないこと、自分を信じてあげること

―――最後に、就職活動を始めた学生たち、ビジネスシーンで日々格闘している人たちに、「なにかヒントはあるか?」と聞くと、米澤社長からこんな答えが返ってきた。

「自分で自分にキャップをかけないことですよね。それが必要です。『自分にはこんなもんできないや』といったキャップを締めてはいけない。自分を信じてあげるというのが、チャンスを広げることにつながるのかなと思います」

「誰しも、自分が努力した量と自分がなりたい姿に、ギャップを感じることってありますよね。わたしは一回目の税理士試験で合格したときに体感したことがあります。『これぐらい努力すると、こういう成果が出るんだ』って。そう感じたあとは、『こういうビジョンを思い描くには、こういう努力が要るよね』って、イメージできるようになりました」

そんな米澤社長、最後の最後にこんな「普段着の米澤恭子」をこっそり教えてくれた。

「仕事を忘れてプライベートの時間には、娘といっしょに海釣りへ。船にも乗る。鯛も釣る。フィッシング道具が増えてきて最近……」と―――。

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