ここは東葉高速鉄道 船橋日大前駅から歩いて20分。船橋市松が丘。閑静な住宅街のなかで、築42年の家が、最期をむかえようとしている。

77歳になる石川良子さんのお家。

「(良子さんが)ひとりで家を維持するのはたいへんだから、手放していい」

生前、良子さんの夫からそういわれていた。夫婦ともに庭いじりが好きで、大きな庭には大小さまざまな樹木が多く植えられていた。

昨年7月、夫が他界。この思い出がいっぱい詰まったお家を手放そうと考え始めたとき、ポラスグループ 中央グリーン開発の「棟下式」に出会った。

良子さんは娘といっしょに、この棟下式でお家にお別れすることを決断。棟下式の当日は、見事に成長したしだれ梅の枝を母娘で切り、思い出の色鉛筆に。

「いろんなことが思い出されて、感無量です」と涙をこぼしながら、長年住み続けたお家に、感謝と別れを告げた。

建物への感謝とお別れの儀式――棟下式

この「棟下式」(むねおろしき)は、いわゆる建物のお葬式。建物への感謝とお別れの儀式。取り壊さざるを得ない建物に感謝と別れを告げる式典。

発想の原点は、「建物を新しく建てる際は『上棟式』を行うが、なぜ取り壊すときにはそのような式がないのだろう?」「リノベーションでリユースできる建物は良いが、耐震や老朽化で取り壊さざるを得ない建物に、きちんとお別れをする式典があってもいいのではないか」という想いから。

棟下式のルーツは2017年、埼玉県越谷市の元企業研修施設再開発プロジェクトをきっかけに誕生した。

「空き家率が年々上昇するなか、お別れすることができずに、廃墟同然で残ってしまっている建物が多くあります。お世話になった建物に感謝を伝え、地域の皆さんといっしょに楽しくお見送りし、使えるものはリユースする」(ポラスグループ 中央グリーン開発)

「オーナーも知り得なかったような、建物への思いを知ることができた」

こうした取り組みが評価され、棟下式は2019年にグッドデザイン賞を受賞。

2022年8月現在、こうした民家をはじめ、歴史的建造物、都心ビル解体セレモニーなど32事例の棟下式が執り行われている。

棟下式(むねおろしき)の内訳は、一般戸建て住宅(22棟)のほか、ビルなどの大規模施設(5棟)、歴史的建造物(5棟)。

「オーナーも知り得なかったような、たくさんのビル建物への思いを知ることができた」(都内ビル解体事例)

「家族が現実を受け止め、気持ちに区切りをつけるよい機会になった」(戸建て住宅相続事例)

「みなさんがひとつ一つ古材を外に運び出して行くときには、まるでそれぞれを養子に出したような気になりました。ちょっと寂しい気持ちもありますが、行く先が決まって本当によかったと思いました。ほんとうに本当にありがとうございました」(100年超の木造蔵解体事例)

―――そんな建物のお別れ式、棟下式が行われた石川良子さんのお家の跡地は、ポラスグループ 中央グリーン開発が、2棟の分譲住宅として販売していくという。

◆棟下式
https://www.muneoroshiki.com/

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