もしかすると「ジャケ買い」という言葉自体が死語の類かもしれません。要は、昔、LPレコード(アナログ塩ビ盤・黒盤)を買う時に、特にロック・ミュージックが好きな層は、輸入盤レコード店などで「ジャケットの魅力」だけで「中身=音」も聴かずに買うことを「ジャケ買い」と称したのであります。もちろん、1985年(昭和60年)のプラザ合意で急激な円高ドル安になって、それまでLP1枚が3,000~3,800円くらいしていた輸入盤が、いきなり2,000円程度(アメリカ盤 英国版はいくぶん高価でした)になって、国内盤(当時2,300~2,800円)よりも安くなったのですから!
記者のコレクションにも国内盤はプラザ合意以前のものしかありません。さらにカットアウト盤(※一定の枚数以上をプレスした原盤からプレスされた盤、塩ビをケチるために薄っぺらいコトが多かった)など1,000円以下で売られていたりしたので、そりゃジャケットがイケてれば買っちゃう時代だったのです。当然、大当たりもあれば(滅多にありませんよ)、大ハズレも多々あったワケです。
余談ですが、当時の国内盤は輸入盤(オリジナル)とジャケットデザインが異なっていました。おまけに日本語で書かれた「解説」がそのままジャケットに印刷されていたり「ダサイ」ことおびただしかったのです。クリームの初期のレコードが顕著!
ソレを変えたのが1970年(昭和45年)に登場したワーナー・パイオニアでした。日本グラモフォンが出していたレッド・ツェッペリンの国内盤とは大違い、オリジナル通りのジャケットでした。解説と歌詞がペラ紙に印刷されてジャケットとは別に封入されていたのです。キング・クリムゾンの『クリムゾンキングの宮殿』もオリジナルイギリス盤と同じだったはずが初回プレスには印刷ミスがあった様に記憶しています。(笑)
以上が半分は不必要で長すぎる前置きです。
創業110年という出版界の老舗講談社が11月15日(金)から全国の約700の書店で『講談社 x クリエイターフェア』を開催します。
10代~30代の男女に圧倒的な支持を得るクリエイターと、創刊48周年を迎えた講談社文庫、創刊4周年の講談社タイガの名作がコラボレーションし、オリジナルカバーを作成。
クリエイターは、女優・俳優・モデル・イラストレーターなど、SNSでも多くのフォロワーを持つ12人。デザインのみならず色味や質感にもこだわっています。思わずコレクションしたくなる個性あふれるカバーが生み出されました。もちろん講談社を代表する名作コンテンツの魅力を存分に引き出すものばかりです。
店頭では黒い陳列台に並べられることで眼を惹き付けます。
クリエイターは、ShibuyaCross-FM『木村なつみのTOKYO Creators Radio』でメインパーソナリティを務める女優・プロデューサーの木村なつみさん、雑誌『Popteen』専属でTikTokでも絶大な支持を集める現役女子高校生モデル・莉子さん、雑誌『mer』などで活躍するモデル・橋下美好さんなど、SNS全盛の時代で大活躍している方々です。
昭和初期から日本人に愛されてきた「文庫」。装丁を入口としてもっと若い“令和世代”の読者にも文庫本の良さを伝えたい! ジャケ買い、大人買い大歓迎! というコンセプトで実施にいたった『講談社 x クリエイターフェア』、わずか10㎝程度の世界で、クリエイターのみなさんはどのような表現をしているのか? 書店店頭でじっくりお楽しみあれ。
『講談社 x クリエイターフェア』参加クリエイターと書名
莉子 × 『島はぼくらと』(辻村深月)
木村なつみ × 『むかし僕が死んだ家』(東野圭吾)
青戸しの × 『殺戮にいたる病』(我孫子武丸)
雪見みと × 『今夜、すべてのバーで』(中島らも)
monet × 『ウォークインクローゼット』(綿矢りさ)
まつうらまれ × 『終わらない夏のハローグッバイ』(本田壱成)
わたらいももすけ × 『変愛小説集』(岸本佐知子)
チョーヒカル × 『密やかな結晶』(小川洋子)
橋下美好 × 『二度寝とは、遠くにありて想うもの』(津村記久子)
ごめん × 『スペードの3』(朝井リョウ)
日出木りんご × 『ジニのパズル』(崔 実)
工藤孝生 × 『星が吸う水』(村田沙耶香)
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以上が「ジャケ買い」を前説した次第です。
余談ですが、講談社文庫が発売された1971年(昭和46年)記者は高校1年生でした。創刊直後の講談社文庫は日本文学が深い緑色のカバーで統一されていました。最初に買ったのは、星新一さんの『N氏の遊園地』、あるいはクロード・レヴィ=ストロースの『悲しき南回帰線』(黄色のカバーでした)だったかもしれません。記念に保存してありますが探すのがタイヘンなので確認できません。
講談社文庫も創刊翌年からカラー多色刷りのカバーに替わりました。大場みな子さんや古井由吉さんなど、比較的新しい作品が文庫化されるので喜んで読んでいました。
今回の文庫本をキャンバスに見立てた新しい試み、実にユニークです。ふだんは書店に鼻のアタマを突っ込まないのですが、久しぶりに書店に行って、実際に見たくなりました。
(住田至朗)