日本経済・金融の課題、進まない国内の金融教育、今後のゆくへは―――。
auじぶん銀行は、「auじぶん銀行臼井社長×西村元日銀副総裁 特別対談『金融の未来とauじぶん銀行が担う役割とは~日本経済の “これまで” と “これから” を金融視点で切る~』」と題したイベントを11月末に開催。
急速に進む技術革新の中で変革期を迎える金融業界について、auじぶん銀行 臼井朋貴社長と、4月からauじぶん銀行のエグゼクティブアドバイザー(EA)に就任した西村淸彦EAが対談した。
日本経済のプロが見る!日本経済・金融の「これまで」
日本経済を長きにわたり研究してきた西村EAは、バブル経済後の景気低迷とデフレは、日本経済にとって大きな足かせとなり、まさにこの困難な時期に、日本経済の構造転換が必要だったと説明。
バブル崩壊が、IT化などに代表される産業技術の革新と重なったと語る西村EAは、日本経済と企業の成長について具体的に二つの道があったと列挙した。
ひとつ目は“新市場を創出して新しい付加価値を作り出す”という道。
これは、新しい技術を、分野を超えて組み合わせ、革新的な商品・サービスを実験的に世に出し、消費者の反応を先読みしながら矢継ぎ早に変更していくもので、消費者の需要も拡大していき物価は上昇傾向になると説明した。
そしてふたつ目は「生産の絶え間ない効率化・費用削減」という道。これは、生産を効率化し低価格で商品を提供するということ。
「本来日本は新市場創出と生産性効率化、この二正面で戦えたものの、金融危機以来、リスクを回避する傾向が強くなり、インターネットを通じたオープン化と連携の強化に企業や政府が乗り遅れ、結局生産効率化の道を選ぶことになった訳です」
「“効率的に生産する”ことが重要なのはもちろんなのですが、今は“新たな価値”を創造する仕組みが求められていると思っています」(auじぶん銀行 西村EA)
効率化が金融業界に与えた影響
日本経済が効率化への道を進んできた流れは、金融業界にどのように影響しているのか。auじぶん銀行 臼井社長はこう説明する。
「日本でのインターネット銀行の登場は2000年からでした。店舗の運営費や人件費をかけずにインターネットを通じて低コストで金融サービスを提供できるので、その分ATMや振込手数料は低くしたり、ローンは低金利で提供したりすることで従来型の銀行に対抗していました」
「“革新的な商品やサービスの提供”という道を目指しつつも、金融法制下における新商品・サービス開発はたいへんだということを言い訳に、“効率化”の道の中で誕生したということなのでしょう」(auじぶん銀行 臼井社長)
この変化にあわせ、auじぶん銀行は、2008年にモバイルバンクを設立。臼井社長は「実店舗を持たないという点では効率化といえるかもしれませんが、それよりも、生活に浸透し始めたスマートフォンに特化してすべてのサービスを展開するという新たな市場を開拓し、顧客体験価値を提供することを目指しています」という。
「『手のひらの上の銀行』というコンセプトのもと、例えば、ネットだけで完結する住宅ローンなど新しい金融の形を見出せたと思います。現在は各社ともFintechやAI技術を取り入れた新たなサービスにも力を入れていますので、急速に発展してきています」(auじぶん銀行 臼井社長)
日本経済の課題
2人は「広がる格差問題 資産形成」というテーマで現在の日本経済の課題にについても言及。
ひとつは、金融サービスが便利に進化していくいっぽうで、高齢層にはインターネットバンキングやキャッシュレスが浸透せず、ICTスキルの低さで取り残されてしまうデジタル・デバイド問題を指摘。
また、日本人の金融知識についても、臼井社長は「実際に投資・資産運用にあまり関心の無い方が多いです。それは環境的に仕方のない側面もあり、欧米に比べて学びの機会が圧倒的に少ないことが課題だと考えています」と伝えた。
auじぶん銀行が提供する金融教育の取り組み
この学びの機会の少なさに対して臼井社長は、大人向け金融教育として、資産運用のウェブセミナーや、元プロ野球選手と臼井社長自身が投資や資産運用について語る対談企画「教えて!臼井社長社長」の実施などを紹介。
また、子どものころから金融に関して正しい知識を身に付ける機会を提供していくことも必要だと考え、子ども向けのアニメーション動画を作成してHPに公開するほか、実際に小学校を訪問してお金の授業をする「夢の教室」といったauじぶん銀行の独自の取り組みについて説明した。
西村EAも、auじぶん銀行ならではの金融教育について「臼井社長社長の活動が大きな広がりを持ってほしいですね」と期待を込めた。
これからの投資は“安心・安全・納得”が新たな判断基準に
金融教育についての課題について、西村EAはこう指摘する。
「これからは、若者への金融知識の教育に加えて、高齢者のITスキル教育や金融知識の再教育も必要になっていきます。家計金融資産はシニア層に偏っているので、デジタル・デバイドのことも考え、金融教育と情報教育の適切な組み合わせというのも必要となるでしょう」
また臼井社長は、シニアまで視野に入れたauじぶん銀行の金融サービス提供について、ユーザーファーストを強調し、こう伝えた。
「幅広いユーザーに受け入れられ、誰でも簡単に操作いただけるものにしていきたいと考えています。SDGsが掲げる『誰一人として取り残さない2030年の未来を創るために』という言葉を実現していきたいですね」
金融教育を進める3つのポイント
また、金融教育を進めるなかで気を付けることとして、西村EAは3つのポイントを解説。
まず(1)「ライフステージによって必要な投資情報や意識が変わること」。
長期に運用して将来への蓄えを増やす若い世代と、資産の取り崩しで長い残りの人生の支出をまかなう高齢層のお金の意識の違いについて語った。
次に(2)「十分な情報が分かりやすく伝わっているか」。
有利な点に焦点をあわせて金融商品を売ろうとする売り手に対し、買い手が不利な点をよく理解した上で判断できるよう、ユーザー目線に合わせた情報提供のサービス展開が必要という。
そして(3)「金融教育によって、単に資産形成に止まらず、“将来自分が何をしたいのか”を考えるようになる」。
これを最も重要なポイントとして挙げ、「その資産を使って日本に、そして世界に貢献ができることが分かれば、生き方が変わっていきますよね」と西村EA。
「自分の考え方で投資をするときに、その投資が他の人々を傷つけることにならないかを気にするようになってほしいです。これは投資家を超えた個人としてのSDGsの基本だと思います」
「ニーズに対する気づきを与えることで、投資に対し“抵抗”ではなく“納得感”をもてるようになる。投資は“安心・安全・確実”が理想ですが、価値が大きく変動するリスク資産に投資しながらそれらを確保することは難しい」
「しかし、“納得”できるものに投資をすることで、金銭的価値の変動に惑わされる程度は減少することになります。投資は“安心・安全・納得”が新しい判断基準になるのではないでしょうか。そして“納得”には、SDGsの視点も含まれます」(西村EA)
「商品・サービスの面でも、お客さまひとりひとりの年齢、価値観、金融知識、ニーズに合わせ、金融をより身近に感じてもらえるサービスを提供していきたいです」(臼井社長)
日本の銀行は生まれ変わる!? 銀行の構造変化
最後に「日本経済、金融の“これから”」というテーマについて。
西村EAは、20年後の日本の銀行について、今のような形の銀行がなくなっていると話し、「地方銀行も再編され、今我々が慣れ親しんでいる銀行店舗、そして銀行そのものも次々に減ってきています」と銀行の変化を予測。
「暗号資産のような全く新しい資産が作られ、今まで存在した資産もインターネット上で形を変えようとしています。さまざまなプレーヤーが、インターネット上、クラウド上で、オープンに連携しています」
「金融と融合した多種多様なサービスを、即座に仮想的な市場で実験を繰り返しながら、形を変え矢継ぎ早に開発し、実際の市場に繰り出しています。この中で、モバイルバンクの先駆者であるauじぶん銀行がどの様に変身していくか、に注目が集まっているといっても過言ではないと思います」(西村EA)
続いて臼井社長は、構造の変化や今後のゆくへについてこう語った。
「無くなるというより、生まれ変わるんだと思います。無くなるという意味では、メガバンク・地方銀行・信金・ネット銀行というような『構造』は無くなると思います」
「インターネット銀行といえば、低コストで、金利や手数料などで従来型のメガバンクや地方銀行に対抗していくということが以前までの構図ですが、いまは低価格だけでは立ち行かない局面にきている」
「金融業界は競争の中で淘汰され、いままでの銀行の姿のまま成長していくことは難しいでしょう」
「我々の競争者は、今後、革新的な技術力で進化していくプラットフォーマーやリテーラーとなり、我々も意識していかなければならない状況です」(臼井社長)
auじぶん銀行は“じぶんにとって便利で利用しやすい”と感じてもらえる銀行に
そして臼井社長は、KDDIや三菱UFJ銀行との連携強化や、グループ内でも存在感を出していきたいと意欲を示す。
「10年後、20年後、我々がグループを牽引するような企業へと成長していくためには、お客さまの目線に立ち、今までの発想にとらわれない商品・サービスを展開していきたいですね」(臼井社長)
「auじぶん銀行の次の一手に関心が集まっているといって過言ではないでしょう。革新的なサービスの提供が求められている背景としては、日本経済・世界経済のかなりの部分が、『既存のサービスの品質競争』から『私にふさわしい、いままでにないサービスの供給競争』へと変化しているためでもあります」
「効率化による費用削減に日本は強い競争力を持っているため、必要なのは効率化と高付加価値の二正面作戦だと思います。これからの20年は推し進めていくべきです」(西村EA)
最後に臼井社長は、事業者側ではなく、ユーザーがサービスを選ぶ時代になったと話し、「銀行のみのサービスに閉じるのではなく、新たな金融体験を提供できるよう、グループ一体となってサービス提供を行っていきたい」と抱負を語り、こう続けた。
「たとえば『auまとめて金利優遇』は、普通預金の金利を優遇するサービスや、証券・キャッシュレス決済・クレジットカードのauのサービスとauじぶん銀行をつなぐことで、金利というプライス面の価値提供はもちろんのこと、ユーザーがシームレスに資金移動を行えるようサービスの機能強化も行ったもの」
「こうした各社のサービスとの連携はこれからも展開を広げていき、より生活にかかわるサービスをつなげることで、新たな顧客体験を創造し、利便性を高めていきたいと考えます」
「そして、我々はさらにお客さま一人ひとりの声を聞かなくてはいけない。“じぶんにとって便利で利用しやすい”と感じていただける銀行に磨きあげ、ユーザーファーストを徹底して追求して、私どものブランドスローガンである『銀行を連れて、生きていこう。』を体現し、お客さまに選ばれる銀行であり続けたいです」(臼井社長)
――― auフィナンシャルグループのauじぶん銀行は、生活の中心となったスマートフォンを通じてユーザーの日常生活での決済・金融サービスをより身近にする「スマートマネー構想」を推進。
今後もスマートフォンを中心とした金融サービスを提供し、「お客さまに一番身近に感じてもらえる銀行」として、ユーザーやパートナー企業とともに新しい体験価値を創造していくという。
◆auじぶん銀行
https://www.jibunbank.co.jp/