「患者さんが直接目にするインターネットなどは不適切な情報にあふれ、やはり患者さんに対して適切な情報を提供することも学会の務めであるという声も大きくなってまいりました。
この度、そういったご要望に応えるため、『患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版』を発刊することになりました」
―――そう語るのは、日本胃癌学会 患者用ガイドライン作成委員 寺島雅典 作成委員長(静岡県立静岡がんセンター胃外科/副院長)。
版元の金原出版は3月31日、都内で「胃がんの標準治療の今 開発の歴史と今後確立が予想されるエビデンス」と題した発刊記念セミナーを開き、寺島雅典 作成委員長が登壇。
19年ぶりに改訂最新版として発売された「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版」(日本胃癌学会編/金原出版)の特徴をはじめ、ロボット手術など胃がん治療の最新トレンドについて説明した。
「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版」の特徴
寺島雅典 作成委員長はまず、「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版」の特徴について、こう伝える。
「この約20年間の胃がん治療の進歩には目覚ましいものがあります。
内視鏡的切除に関しては2cm以下の粘膜内がんに対してのみ EMR(内視鏡的粘膜切除術)が推奨されていたものが、現在では一部の未分化型がんを含めて ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)が推奨されるに至っています。
外科的手術療法に関しても、当時は開腹手術が標準で、進行がんの一部では拡大手術も推奨されていました。
ところが現在では、拡大手術の適応は極めて限られるようになり、当時は「臨床研究的な治療法」とされていた腹腔鏡手術が進行胃がんを含めて標準治療のひとつとして推奨され、さらにはより進化したロボット支援手術も推奨される時代になっています。
薬物療法に関してはさらに進歩が著しく、2004年版では特定のレジメンすら推奨されていなかったものが、現在では三次治療まで個別のレジメンが推奨されるに至っています。
こういった治療の進歩は同時に、複雑な多様性に富む治療が提供されることになり、患者さんにとっては余計に解りづらい印象を与えてしまいます。
同書では、解説文に加えて多くのQ&Aを設け、さらにわかりやすいイラスト図解を加え、初めから順番に読まなくても、患者自身が知りたい箇所から参照していただければと思います」(寺島雅典 作成委員長)
セミナーで寺島雅典 作成委員長がまとめたトピックス
また「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版」発刊記念セミナーで寺島雅典 作成委員長がまとめた注目トピックスが、次の4項目だ。
◆早期胃がんには内視鏡的治療が積極的に行われている。
◆低侵襲手術として腹腔鏡下手術のエビデンス(科学的な根拠)が蓄積され、進行癌に対しても適応が可能となりつつある。
◆ロボット手術は合併症の少ない手術として注目されているが、エビデンスの確率が必須である。
◆新規薬物療法として、抗PD-L1抗体薬の使用が推奨されるようになった。今後、新しい分子標的治療薬も導入される予定である。
―――寺島雅典 作成委員長は、ロボット支援下胃切除術の症例数が保険適用後から徐々に増えていることについて、「ステージ1・2の胃がんに対しても行われた臨床試験では、いままでの腹腔鏡下手術よりも手術後の合併症が少ないことが示唆されていますが、まだ十分なエビデンスが得られてないことから、胃がん治療ガイドラインにおいては行うことを弱く推奨するとされています」とも伝えていた。
「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版」(日本胃癌学会編/金原出版)の目次・詳細などについては、公式サイトへ↓↓↓
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307204675