埼玉県の北部にある深谷市は、今年7月から新一万円札の顔となる渋沢栄一生誕の地です。近代日本経済の父と称された渋沢ゆかりの地を、令和の最先端技術である自動運転バスが走行します。

深谷市は市内公共交通へ自動運転技術の導入を目指し、渋沢栄一新一万円札発行記念「自動運転バス試乗会in深谷」を1月12日から19日に開催しました。「渋沢栄一記念館」を出発し、旧渋沢邸「中の家(なかんち)」や渋沢が設立に尽力した「旧煉瓦製造施設」、渋沢の学問の師でもある「尾高惇忠生家」などを巡る約13kmの運行ルート。走行するバスは埼玉工業大学が開発、所有する全長9mの大型自動運転バスです。早速、乗車してみましょう!

乗り心地は通常運転バスと違いなし


エンジンがかかり、ゆっくりと走り出します。車内でまず目に付くのは運転席の後ろに設置されたモニター。これで現在は自動運転なのか、運転手による手動運転なのかが分かります。出発から行動に出るまで、ほとんど自動運転。運転手はいるものの、ハンドルが自動で回り公道に出ます。とても不思議な光景ですね。

渋沢栄一記念館周辺は、決して広い公道とは言えません。そして、狭い道を右折する際に対向車がやってきました。バスはそれを素早く検知し一時停止。この時も自動でブレーキが作動し、安全にすれ違いました。信号がない交差点もしっかり検知し、適切な速度で走行。また、しばらく走るとバイパス道路に出ますが、ここではなんと時速60kmで走行します。13kmの走行を終え、手動に切り替わったのは路上駐車を避ける時など、ほんの一部。ほとんどが自動運転走行ながら、運転手による通常運転と何ら変わりのない乗り心地でした。

試乗会に来ていた40代男性は「ブレーキのタイミングなども違和感がない。バスの運転手は減ってきていると聞くが、バスが無くなるのは困る。社会実装されたら、ぜひまた乗車したい」と話していました。

遠隔監視システムも一般公開


試乗会に合わせて、渋沢栄一記念館では株式会社東海理化による「自動運転バス遠隔監視システム」の一般公開も実施されました。車内外の安全を確認するため、バスに取り付けられたカメラは10台以上。360度映像を1枚のスクリーンで監視することができます。車内カメラには骨格検知技術が搭載されており、乗客の姿勢などで危険性を察知します。

同社の遠隔監視システム実証実験を担当する葛谷麻未氏は「自動運転レベル4を見据えたシステム開発がテーマ。有事の際に早期復帰の支援ができるよう、精度を高めていきたい」と語りました。

コンソーシアム結成で社会実装へ加速


今回の試乗会は、深谷市をはじめ地元の大学・埼玉工業大学や深谷観光バスなど全8事業者が「深谷自動運転実装コンソーシアム」を結成して産学官連携体制で開催。国土交通省の「令和4年度地域公共交通確保維持改善事業費補助金」に埼玉県内で唯一採択された取り組みの一環です。

同大学で自動運転技術開発センター長を務める渡部大志教授は「参画していただいた事業者それぞれの得意分野が活かされている。今回は自動運転レベル2による運行の実証実験だったが、レベル4の実現に向けて動きを加速させていきたい」と手応えを感じています。また、期間中には深谷市立八基小学校と深谷市立豊里中学校の生徒が自動運転バスに乗車。埼玉県初となる、小中学生向けの自動運転バス特別授業と試乗体験が実施されました。

安全な一時停止。時速60km走行でも問題なし。遠隔監視システムの精度向上にコンソーシアムの結成。子どもたちの乗車体験。なるほど、自動運転バスが私たちの街を走る日も近いかもしれません。

関連リンク:https://saikocar.sit.ac.jp/

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