生体機能に欠かせない多くの酵素の活性に必要で、さまざまな病態や状態に応じて種々の役割を果たしている生体内必須微量元素―――亜鉛(Zn)。
先進国のなかでも日本はとくにこの亜鉛が欠乏していて、血清亜鉛濃度が低下し、生体内の亜鉛が欠乏した状態の低亜鉛血症などになると、味覚障害、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、性腺機能不全、易感染性、褥瘡(じょくそう)、食欲低下、発育障害(小児)などさまざまな症状を引き起こすといわれている。
そんな知ってそうで知られていない亜鉛の重要性を教えてくれたのが、低亜鉛血症治療剤『ノベルジン錠 25 mg/50 mg/顆粒 5%』をはじめ、難病・希少疾病などの医薬品や医療機器の開発を手がけるノーベルファーマと、順天堂大学 医学部 横川博英 准教授。
両者が共同で、日本全国のレセプトデータベースを利用し、外来・入院患者1万3100人の血清亜鉛データを分析。国内初の「亜鉛欠乏症大規模調査」の結果を都内で6月に発表した。
亜鉛測定患者の3人に1人は亜鉛欠乏症
順天堂大学とノーベルファーマは、2019年1月から2021年12月までの期間で、国内患者1万3,100人(20歳未満の患者、亜鉛含有薬処方後の全記録を除く)の、急性期病院の全国レセプトデータベースの中から血清亜鉛濃度を測定。
その結果「亜鉛測定患者の3人に1人は亜鉛欠乏症」(34.8%)であることがわかった。
加齢とともに血清亜鉛濃度は低下
年齢別の血清亜鉛濃度を調べると、加齢に伴い血清亜鉛濃度は低下していた。
併存疾患別の血清亜鉛濃度
誤嚥性肺炎・褥瘡・サルコペニア・慢性腎臓病を併存する患者は、50%以上が亜鉛欠乏症だった。
併存疾患と亜鉛欠乏症の関連
併存疾患では、誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、COVID-19、慢性腎臓病の順に亜鉛欠乏症に関連していた。
治療薬別の血清亜鉛濃度
利尿剤・甲状腺ホルモン・抗貧血薬・全身用抗菌薬による治療患者の50%以上が亜鉛欠乏症だった。
治療薬と亜鉛欠乏症の関連
利尿剤、全身用抗菌薬、抗貧血薬、甲状腺ホルモン治療の順に亜鉛欠乏症に関連していた。
「これらの薬剤が亜鉛欠乏症を引き起こすのではなく、『治療が必要な人に亜鉛欠乏症が多い』という解釈だ」(順天堂大 横川博英 准教授)
順天堂大 横川 准教授の総評
順天堂大学とノーベルファーマが、レセプト情報をもとにした大規模データベースを構築し、日本人亜鉛欠乏症患者の理学的・臨床的特徴を評価した結果について、順天堂大 横川 准教授は、こう総評している。
◆亜鉛測定患者の3人に1人は亜鉛欠乏症であった
◆亜鉛欠乏症の頻度は加齢とともに上昇し、併存疾患・使用薬剤との関連が明らかになった
《疾患》 誤嚥性肺炎・褥瘡・サルコペニア・COVID-19・慢性腎臓病など
《薬剤》 利尿剤、全身用抗菌薬、抗貧血薬、甲状腺ホルモン治療など
◆とくに、高齢者では亜鉛不足に配慮した併存疾患の治療が重要である
「亜鉛が多く含まれる食品を」
順天堂大 横川 准教授は、こうした結果を受けて、「亜鉛不足に陥らないために、まずは食生活が重要です。亜鉛が多く含まれる食品は、牡蠣、牛肉、レバー、白米、納豆などがあります。亜鉛不足に関連する症状でお困りの方は、ぜひ医療機関へご相談ください」と伝え、医療関係者に向けてはこう指南した。
「高齢患者さんを中心に亜鉛欠乏の頻度が高い傾向があります。亜鉛欠乏にも配慮した併存疾患の治療が重要です」
「1日1回の服用で亜鉛補充」
低亜鉛血症治療剤『ノベルジン錠 25 mg/50 mg/顆粒 5%』をすでに販売しているノーベルファーマは、ノベルジン錠との比較試験成績をもとに製造販売承認を取得。
ノーベルファーマ 島崎茂樹 副社長 執行役員は、低亜鉛血症治療剤『ジンタス錠 25mg/50mg』について、「1日1回の服用で亜鉛補充ができ、アドヒアランスの向上が期待できる」と伝えた。
同社は、「本剤の製造販売承認の取得により、亜鉛補充療法に新たな選択肢を提供していく」という。