ノーベルファーマ社(東京都中央区)の世界初の自己免疫性肺胞蛋白症治療薬「サルグマリン吸入用 250μg」の提供開始を受け8月、開発に携わった教授や患者会の代表が講演し、開発の歩みや新薬のポイントを語った。

新薬は患者の負担を小さくする“新たな選択肢”となると期待を寄せる。

「なんとなく運動時に息切れする」

2006年10月下旬、日本肺胞蛋白症患者会 小林剛志 代表は体の異変を感じた。

風邪のような症状が続き、ひどい時は「夜は寝られないほど咳が頻発」した。

受診したものの、過敏性肺炎や間質性肺炎などと診断され、症状は改善せず、趣味だったロードレースでも、パフォーマンスが落ちた。

様々な医療機関を受診し、病名が「肺胞蛋白症(PAP)」と確定したのは2007年2月。「私も初めて聞いた。多くの患者はイメージがつかないと思う」と振り返る。

その後、自らネットで検索し、探し当てたのが新潟大学 医歯学総合病院 高度医療開発センター 中田光 特任教授。検査で「自己免疫性PAP」と分かり、二人三脚の治療が始まった。

難病 自己免疫性肺胞蛋白症とは

自己免疫性PAPは、抗 GM-CSF 自己抗体の過剰産生により成熟肺胞の細胞による老廃物の分解が阻害されて発症する病で、肺胞にコメのとぎ汁状などの老廃物が溜まり、呼吸困難や咳、痰などの症状ある。

国内の患者数は約730~770名と推定される指定難病だった。

主な治療法は全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄であり、小林 代表自身も受けた。

この治療法は全身麻酔下で肺に生理食塩液を注入し、老廃物を洗い流す手術で患者の負担が大きい。

サルグマリン吸入療法は負担の大きな時間から解放される一歩であり、「サルグマリンは患者の負担を軽減する」。小林 代表はそう実感する。

サルグマリン吸入療法の特長

8月にノーベルファーマ本社であった説明会には、小林 代表のほか、新薬開発を主導した中田 特任教授、杏林大学医学部呼吸器内科 石井晴之 主任教授が出席。最新情報を伝えた。

新薬は吸入により肺胞の細胞に直接作用し、成熟を促し、老廃物の分解を促進することで、肺機能を改善する吸入用薬剤。

これまでの全肺洗浄などは、術後に速やかな症状改善が期待できるものの、侵襲性が高いなどの課題があったが、それに比べ、吸入療法は侵襲性が低く、在宅治療も可能となる。

「ウイルス肺炎、肺真菌症にも」

中田 特任教授は「ウイルス肺炎(インフルエンザ肺炎・新型コロナ肺炎)、肺真菌症(肺アスペルギルス症)などにも吸入療法の適用拡大が考えられる」と期待を寄せる。

ノーベルファーマ社も「臨床現場で『薬物治療』という新たな治療の選択肢になるとともに、自己免疫性PAPの治療満足度向上に貢献できる有意義な薬剤と確信している」とする。

呼吸機能の改善に期待

世界初の自己免疫性PAP対する薬物療法「サルグマリン吸入療法」のどこが画期的なのか。中田 特任教授は次の4点をあげる。

◆これまで全身麻酔下で、肺を洗浄する方法しかなかったが、吸入によって肺の老廃物を処理し、呼吸機能の改善が期待できる。

◆一部の患者において肺胞の機能改善が確認された自己免疫性肺胞蛋白症に対する世界初の治療薬。

◆広い安全域を持ち、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されている。

◆1日2回、10分程度の吸入で効果が期待できる。

早期発見、早期治療を

石井 主任教授は、患者を対象にした吸入療法の研究で、酸素がより一層入りやすくなる「酸素化の改善」がみられ、副作用も少なかったと報告。

全肺洗浄などは効果が見られない場合、半年に1回繰り返し行うこともあり、「負担が大きかった」とし、吸入療法については「子どもや高齢者でもできる患者本人の負担の少ない療法」であり、洗浄の回数を少なくできる可能性もあるとした。

自己免疫性PAPが疑われる患者に向け、「診断が遅れ、肺活量が落ちてしまった場合には、吸入療法の効果がみられづらくなることもあり得る」とし、早期発見と早期治療の重要性を説いた。

また、希少難病であるため、医師によっては診断につながらない場合もあったが、「今回の新薬は医師の診断への意識が高まる」と医療機関への好影響に期待を寄せた。

患者みんなが安心できるように

小林 代表は症状に気付き、確定診断が出るまで3か月かかった。

「世の中には自分のような患者がいるのではないか」。医師も含め、多くの人の病気への理解促進の必要性を痛感し、2011年に患者会を設立した。

今回の新薬は「患者にとって新たな選択肢となり、喜びもひとしお」としつつ、「自己免疫性PAPなら誰でも処方してもらえるのか」「新薬が有効ではない時にどうするか」といった不安点を挙げ、保管方法や薬価の高さ、器具の洗浄などの課題についても言及し、こう締めくくった。

「新薬の提供で患者全員が救われるわけではない。さらに研究が進み、みんなが安心できるようになってほしい」

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