科学技術や社会技術の革新を促し、目まぐるしく変化する社会の中での税制などの制度の在り方について調査・研究する、政策改革・イノベーション研究所(IIPR:Innovation Institute for Policy Reform)は、第2回「政策改革・イノベーションシンポジウム 技術革新とハームリダクション-たばこ税制の観点から」と題したシンポジウムを開催。

田中和徳 衆議院議員(自民党税制調査会副会長・国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟会長)や、蔵研也 政策改革・イノベーション研究所 代表理事が登壇し、技術革新が社会制度に与える在り方・インパクトをはじめ、日本における政策改革、イノベーションを進める税制・規制改革について、たばこ税制を軸に議論した。

日本は紙巻き・加熱式の税差がほぼ同じ

政府は、2022年末の税制改正大綱で、防衛費増額の財源を確保すべく、法人税・所得税・たばこ税を増税することが盛り込まれた。

具体的な措置は検討中で、たばこ税の増税では、加熱式たばこの税率を現行の紙巻たばこと同率まで引き上げる措置も検討候補に入っている。

欧米では、たばこハームリダクション(たばことニコチンの使用を完全に排除することなく害を最小限に抑え、死亡と疾病を減少させる)という考え方がすすみ、紙巻たばこと加熱式たばこの税に大きな差をつけている。

たとえばハームリダクションを禁煙施策に取り入れているイギリスは、紙巻たばこの1箱あたりの税金は1000円を超えるなか、加熱式たばこは250円ほどにとどめ、7割超の税差をつけている。

ドイツも7割超、イタリアは6割超、アメリカは3割といった具合だ。

こうした欧米のたばこハームリダクションという考え方に対し、日本の加熱式たばこの増税に異議を唱えるのが、蔵研也 政策改革・イノベーション研究所 代表理事だ。

「合理性 公平性 技術革新の観点から反対」

「たばこに対して特別な課税を行う理由は、たばこは食料品などのような生活必需品とは異なる特殊な嗜好品としての性格を有することにあるとされています。

しかし、数あるその他の嗜好品のなかから たばこ のみを本来過剰な課税対象とする合理的な根拠はありません。

また、2010(平成22)年度 税制改正大綱では「たばこ税については、国民の健康の観点から、たばこの消費を抑制するため、将来に向かって、税率を引き上げていく必要がある」とし、たばこ増税が行われる理由として健康目的のニュアンスが盛り込まれています。

ただし、喫煙をいますぐ一律に禁止することは、たばこ消費者が日本に数千万人単位で現実に存在している以上非現実的で、その有害性を低減するためのハームリダクション※の考え方を積極的に採用することが望ましいと考えます。

実際、2010年度以降に急速に紙巻たばこの消費が低減している理由は、加熱式たばこが普及していることが原因のひとつです。

紙巻きたばこにはすでに発がん性が明確に確認されています。

いっぽう、加熱式たばこも健康に対するリスクの存在が指摘されていますが、多くの研究機関がさまざまなエビデンスを蓄積している最中であり、ハームリダクションに寄与する技術革新に向けた取り組みが積極的に行われています。

加熱式たばこの技術革新によって、健康被害を低減するイノベーションが起こり、将来的な医療費低減にもつながる可能性があります。

2022年12月自民党税制調査会にて、防衛費増額の財源を法人税・所得税・たばこ税の3つの税目を組み合わせてまかなうという増税案でいったんの決着を見ましたが、同調査会でも拙速な議論を避けるべきとする声も強く、『2024年以降の適切な時期に増税を行う』とされています。

実際、2024年のたばこ税は加熱式たばこの税率が引き上げられて、1本あたり3円程度の段階的な値上げが行われる可能性があります。

しかし、上述の通り、たばこの消費者はすでに約2兆円の税負担を実施し、たばこのみが嗜好品として重く課税される根拠もなく、健康面などでの技術革新が期待される加熱式たばこのみを増税対象とする増税案には合理性がありません。

まして、防衛費増額を加熱式たばこの消費者に極めて偏ったかたちで負担させる理由も見出せません。

また、平時の防衛費を安易に増税に頼ることは、一国の経済力をいたずらに毀損(きそん)することにもつながります。

したがって、経済的合理性、租税負担の公平性、ハームリダクション・技術革新の観点から、2024年に可能性がある加熱式たばこの増税に対して反対します」(蔵研也 代表)

「たばこ税収でしっかり受動喫煙被害対策を」

こうした蔵研也 代表の考察・訴えを聞き、田中和徳 衆議院議員(自民党税制調査会副会長・国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟会長)は、受講者たちにこう伝えた。

「たばこは、食料品などのような生活必需品とは異なる特殊な嗜好品としての性格に着目し、国と地方でたばこ税などを課しています。

その税収は、国税と地方税のそれぞれにおいて、年間1兆円。合計2兆円で、国と地方の貴重な財源のひとつです。

こうした税収が地方にも入ってきます。たとえばわたしがいる川崎市では100億円規模のたばこ税収が入ってきます。

ですから、こうした税収を国と地方でしっかりと、受動喫煙被害を受けない施設・設備の拡充に使われるべきです。

このたばこ税収をしっかり活かし、徹底した喫煙所・喫煙室の設置・整備などを推し進めていかなければならないと思います」(田中和徳 衆議院議員 自民党税制調査会副会長・国民の健康を考えるハームリダクション議員連盟会長)

―――政策改革・イノベーション研究所(https://iipr.jp/)では、10月にも「政策改革・イノベーションシンポジウム」を都内で開くという。

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