糖尿病治療薬 DPP-4阻害薬の真の主役は GIP(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide)か―――。

そんな新たな見解が、岐阜大学・藤田医科大学・関西電力医学研究所・京都大学の共同研究で公表され、「GIPシグナルに関するさらなる研究を通して、ダイアベティス(糖尿病)や肥満症に対する新規治療の創出が期待される」という。

―――岐阜大学・藤田医科大学・関西電力医学研究所・京都大学は、高脂肪食によって肥満になったマウスを用いて、DPP-4阻害薬の「血糖値を改善する効果」「体重増加を抑える効果」に対し、GIPがどのように関与しているのかを詳しく調査。

その結果、GIP受容体を欠損したマウス(GIP受容体欠損マウス)を、高脂肪食によって肥満にした場合、DPP-4阻害薬を使用しても、「インスリン分泌を高めて血糖値を改善する効果」「体重増加を抑える効果」が、完全に失われてしまうことが明らかに。

この結果から、DPP-4阻害薬が体内のインクレチンを増やして効果を発揮するさい、少なくともマウスにおいて、中心的な役割を担っているのは GLP-1 ではなく GIPであることが示された。

本研究は、これまで十分に注目されてこなかった GIPの重要性を明確に示し、インクレチン治療の考え方を大きく前進させる成果だという。

本研究成果は、現地時間2026年2月3日に国際学術誌「Journal of Diabetes Investigation」オンライン版に掲載された。

インクレチンとは

インクレチンとは、食事摂取にともない腸から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促し、血糖上昇を抑制。インクレチンには、GIP と GLP-1 の2つが知られている。

DPP-4阻害薬とは

DPP-4阻害薬とは、インクレチン(GIP や GLP-1)を分解する酵素であるジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)の働きを抑える薬。

この薬によって、体内で活性を持つインクレチンの濃度が高まり、血糖値に依存してインスリン分泌を促進するため、日本では低血糖を起こしにくい糖尿病治療薬として広く使用されている。

研究背景:GIP が果たす役割は十分に解明されていなかった

わが国で、ダイアベティス(糖尿病)の治療薬として広く使用される DPP-4阻害薬は、食事の際に腸から分泌されるホルモン「インクレチン」の働きを高め、食後早期のインスリン分泌を促進することで血糖値を改善すると報告されている。

これまでの研究から、DPP-4阻害薬は高脂肪食によって肥満状態になったマウスにおいて、血糖値を下げるだけでなく、体重増加を抑える効果も持つことが明らかにされている。

そのいっぽうで、インクレチンには GIP と GLP-1 の2種類があり、これまでの研究の多くは GLP-1 に注目して進められてきたため、もう一つのインクレチンである GIP が果たす役割は十分に解明されていなかった。

こうした背景を踏まえ、本研究では、遺伝子操作により GIP受容体を欠損させたマウス(GIP受容体欠損マウス)を用いて、DPP-4阻害薬による代謝改善効果に対する GIP の関与を詳しく検討した。

研究成果:GIPシグナル喪失で十分な血糖改善効果が得られない可能性

DPP-4阻害薬を投与した野生型マウスでは、耐糖能(体がどれだけ糖を適切に処理できるかを示す指標)の改善と体重増加の抑制が認めらた。

いっぽう、GIP受容体を欠損したマウスでは、これらの効果が完全に失われることが明らかになった。

具体的には、高脂肪食を与えた野生型マウスに DPP-4阻害薬であるアナグリプチンを長期間投与したところ、経口糖負荷試験において負荷後早期にインスリン分泌が増加し、血糖値の上昇が抑制された。

さらに、食事量に変化がなかったにもかかわらず、体重増加が有意に抑制された。

しかし、同様の試験を GIP受容体欠損マウスに行っても、インスリン分泌、血糖値、体重いずれにも改善効果は見られなかった。

加えて、アナグリプチン投与によって GLP-1の血中濃度は両群で同程度に上昇していたにもかかわらず、GIPシグナルが失われると GLP-1単独では血糖改善効果を発揮できないことが示された。

さらに、高脂肪食を与えた両群のマウスに対し、別の DPP-4阻害薬であるリナグリプチンを投与した実験でも同様の結果が得られた。

これにより、DPP-4阻害薬全般において、GIPシグナルの喪失により、内因性GLP-1 による GLP-1シグナルの活性化だけでは十分な血糖改善効果が得られない可能性が示唆された。

なお、GIP受容体欠損マウスに GLP-1受容体作動薬であるデュラグルチドを投与した場合には、経口ブドウ糖負荷試験において血糖値の上昇が抑制されることが確認された。

したがって、GLP-1受容体作動薬と DPP-4阻害薬では、血糖値の上昇抑制に必要なシグナルが異なることが示唆された。

GIP受容体を欠損した肥満マウスでは血糖改善効果や体重増加・脂肪蓄積の抑制は認められなかった

高脂肪食を与えて肥満状態とした野生型マウスにおいては、DPP-4阻害薬を長期投与することで、経口糖負荷試験における血糖値の上昇が顕著に抑制された。

しかし、GIP受容体を欠損した同様の肥満マウスでは、こうした血糖改善効果は認められなかった。

高脂肪食を与えて肥満状態とした野生型マウスにおいて、DPP-4阻害薬を長期投与することで、体重増加および脂肪蓄積が有意に抑制された。

しかし、GIP受容体を欠損した同様の肥満マウスでは、このような体重増加や脂肪蓄積の抑制は認められなかった。

高脂肪食を与えて肥満状態とした GIP受容体を欠損したマウスにおいて、DPP-4阻害薬を長期投与することで、内因性GIP、GLP-1の血中濃度がともに上昇することが確認された。

今後の展開:糖尿病や肥満症に対する新規治療の創出に期待

本研究により、高脂肪食により肥満状態になったマウスにおいて、DPP-4阻害薬の主たる効果が内因性GIPシグナルに不可欠であることがわかった。

今回の研究はマウスでの結果であり、ヒトへの外挿性については注意が必要だが、ダイアベティス(糖尿病)治療における GIPシグナルの重要性を強く示唆するもので、GIPシグナルに関するさらなる研究を通して、ダイアベティス(糖尿病)や肥満症に対する新規治療の創出が期待できる。

おすすめ記事