舌癌(ぜつがん)を患い外科手術で舌を切除すると、うまく話せなくなるうえ、舌全摘手術だとまったく話せなくなり、食事は常に流動食になり、つらい思いから抜け出せず、自殺にまで至ることも―――。
こうした切実な実情のなか、「舌癌は、切らずに治療できる選択的動注併用放射線治療を」と訴え、長年 口腔癌(舌癌)患者と向き合い、多くの命を救ってきた医師がいる。
不破信和 fuwa-nobukazu.com
舌を切らずに治す「選択的動注併用放射線治療法」による未来の標準治療の確立をめざす、中部国際医療センター 陽子線がん治療センター 不破信和 施設長・医師が、東京・銀座で「舌癌治療の最前線 切らずに治療できる『選択的動注併用放射線治療』」と題した説明会を開き、「舌癌を患い外科的手術で切除を迫られている患者は、我々がいる中部国際医療センターに相談してほしい」と伝えた。
「世界の医療拠点」めざす中部国際医療センター
岐阜県美濃加茂市健康のまち一丁目1番地に、2022年1月に開設した中部国際医療センターは、がん治療・救急医療・地域連携をより強化した新しい医療体制で、「地域の、日本の、世界の医療拠点」をめざす岐阜・中濃エリア最大規模の医療複合施設。
最新の高度専門医療機器をいちはやく積極的に採り入れる拠点としても知られ、ことし2023年夏には、日本初となる陽子線治療装置「プロビーム」(バリアン社製)を導入した陽子線がん治療センターを開設。
がんに集中的に照射できる陽子線は、副作用があまりなく、通院で治療を受けることもできる。
また現在は、肺がん、肝臓がん、膵臓がんなどの治療が可能で、小児がんや局所進行性前立腺がん(転移を有するものを除く)など、一部疾患は保険が適用されている。
選択的動注併用放射線治療法で舌癌は切らずに治療できる
話す、食べる、味わうなど、人間として幸せに生きるうえで重要な機能―――口腔(こうくう)。
その口腔の癌は、年間約6000人が患い、その内約3000人が死亡するという。
口腔癌のなかでも舌癌は、口腔癌のなかで最も多くその半数を占め、近年は発症者、死亡者ともに年々増加傾向にあり、今後もさらに増えるだろうと、中部国際医療センター不破信和医師はいう。
「舌癌を患い、外科手術で舌を切除する前に、我々がいる中部国際医療センターで切らずに治療できる選択的動注併用放射線治療法に頼ってほしい」と不破信和医師。
この切らずに治療する選択的動注併用放射線治療法とは、癌を栄養する動脈にカテーテルを通して、抗がん剤を直接投与する治療法のひとつ。
抗がん剤の濃度を高くできるため、それだけ治療効果が高まり、抗がん剤の総量を減らすことが可能になるため、全身への副作用が軽減されるという利点もある。
「選択的動注併用放射線治療法」とは、治療を目的とする癌につながる動脈を選択し、そこにカテーテルを通して抗がん剤を直接投与しながら、併せて放射線(陽子線)治療も行っていく。
「手術と同等あるいはそれ以上の治療成績」
進行性舌癌に動注療法で30年以上前から取り組み、その開発と技法をリードしてきた中部国際医療センター不破信和医師は、化学メーカーが開発した外頸部動脈に一定期間取り付けられるECAS(External Carotid Arterial Sheath)と、ECAS から挿入し目的動脈を選択するマイクロカテーテルを用いて、高い治療効果をあげている口腔癌治療の第一人者。
浅側頭動脈にECASを挿入し、先端を顎動脈と顔面動脈の間に留置。癌の部位に合わせた目的動脈を選択し、ECASの頭の部分からマイクロカテーテルを挿入し(進行性舌癌の場合は、舌動脈と顔面動脈に挿入)、濃度の高い抗がん剤を癌に直接投与していく。
治療回数は腫瘍のサイズや効果によって決定し、ECASは1か月以上留置することになる。その間に、放射線(陽子線)治療も並行して行い、舌を切除することなく、機能障害も残さない治療を可能にした。
東京・銀座で中部国際医療センターが開いた説明会で、不破信和医師は、「ECASによる動注療法により、安全かつ確実に複数の動脈に動注治療が可能となり、手術と同等あるいはそれ以上の治療成績が得られるようになった」と伝えた。
仕事を続けながら治療できる陽子線がん治療センター
この夏、日本初となる陽子線治療装置「プロビーム」(バリアン社製)を導入した陽子線がん治療センターも開設される中部国際医療センター。
この陽子線がん治療センターでは、1日1回の治療で照射時間は15分程度、照射中に痛みを感じず、身体への負担も少なく、仕事を続けながら治療できるといったメリットがある。
また陽子線治療は、がん病巣にピンポイントで高いエネルギーで照射できるため、ほかの正常な細胞へのダメージが小さく、放射線の影響を受けやすい器官の近くにある病巣へも照射可能。
X線での治療が難しかった癌に対しても治療ができるようになり、陽子線がん治療センター施設長でもある不破信和医師は、説明会で最後にこう伝えた。
「中部国際医療センターでは、頭頸部癌では動注治療併用陽子線治療を、また2024年には保険収載される可能性のある進行肺癌・食道癌に対して薬剤との併用に取り組み、治療成績の大幅な改善に取り組みたい」
◆中部国際医療センター
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