水上の格闘技―――ボートレースの世界でいま、女性レーサーたちがめざましい活躍をみせている。

1985年、ボートレース芦屋でデビューした日高逸子は、女性レーサーの躍進をリードしてきたひとり。

彼女が実力でもぎとった通算獲得賞金は、なんと10億円! 35年というキャリアをもってアグレッシブに駆け続ける日高逸子。

女性ボートレーサーの先駆者として水上を駆け抜け、いまでも圧倒的パフォーマンスでファンを魅了し続ける彼女は、ボートレース界でどう闘ってきたか、人生の航路をどう描いてきたか。そしてこの先の水上をどう走り続けていくか……。

女性ボートレーサーのレジェンドであり、2児の母でもある日高逸子の、過去・現在・未来を、3回に分けて連載。

第3回の最終回は、ケガからの意地でも再起動する彼女の気力、最後まで勝負をあきらめない心、生涯現役を貫く心身維持のスキル、若手選手との攻め方の違い、子どもたちに想うこと……などを語ってもらう。

2015年に落水し大けが、再起と進化

Q9 ボートレーサーでいる限り、事故やケガは避けられないと思いますが…

◆日高逸子選手―――私が大きなケガをしたのは、4年前。2015年4月のボートレース戸田の優勝戦で落水して、浮いたり沈んだりしながら3回ぐらい後続艇にひかれたときだけです。

骨折はなかったけど、肺に水が入って、レントゲンが真っ白!

◆夫・邦博―――福岡の家で食事を作りながらテレビを見ていたら、事故の瞬間が映って。

「これは…」と心配していたら、関係者の方から電話が入って、急いで埼玉の病院へ向かいました。病室に着いたら酸素吸入をしていて…。

そんな状態なのに、彼女は「退院して帰る」って言うんですよ。「帰れるわけがない!バカじゃない?」と言っても聞かない。

仕方なく医者に聞いてみたら「退院するとか帰るとか、できるわけないじゃないですか!」と怒られました。

◆日高逸子選手―――何日か後にある、ボートレース若松オールレディースのドリーム戦に選ばれていて「どうしても走らなきゃいけない」と思って。

福岡に帰ったらすぐ病院へ行くということを条件に、2日後に退院を認めていただきました。

退院のときに、先生が「日高選手、サインください」って。ファンでいてくださったみたい(笑)。

レース中は夕食抜き、大好きなお酒も控えて

Q10 体力維持のために自己投資していることはありますか?

◆日高逸子選手―――家から車で20分くらいのところにあるヨガスタジオに通っています。ホットヨガ(高温多湿な環境で行うヨガ)です。

私は太りやすい体質で、そこに35年間、苦労しています。レース参加中は夕飯を食べません。

でも朝はガッツリ食べますよ。お昼はパンと牛乳くらい。選手宿舎でもヨガをします。部屋にマットを敷いて1時間程度。家では70分ぐらいやります。

なのに、家で酔っぱらっちゃうと、この人のカツサンドを半分ぐらい食べちゃったりして…。

朝になって「何で止めてくれなかったの!?」と文句言ったり(苦笑)。

お酒は、焼酎でもワインでもビールでも。ファンの方からいただくことも多いですね。

日本酒は美味しいんですが、太りそうなので飲まないようにしています。

若手レーサーとの違い、大山千広は平成ターン、怖いという気持ちをなくせ

Q11 若い世代のレーサーたちに特に感じるジェネレーションギャップはありますか?

◆日高逸子選手―――ターンが全然違いますね。私たちは昭和のターン、大山千広ちゃんとかは平成のターンです。

私たちはターンマーク(水上標識のブイ)の近くを小さく回っているけれど、平成のターンはターンマークから離れたところを回る。

スピードが全然違うわね。ただ、波が出たり、風が吹いたりする水面なら負けないつもりです。

私たちは寒風吹きすさぶ富士山麓・本栖湖の荒水面育ち、向こうは温暖なやまと育ちですから。

千広ちゃんのところとは家族ぐるみの付き合いをしているので、小さいころから知っています。

私の長女と次女の間が千広ちゃんという年齢関係で、千広ちゃんの服のお下がりを私の次女がもらったりしていました。

荒水面で勝つ秘訣ですか? 怖いという気持ちをなくすことです。

「何でもできる母を尊敬しています」

Q12 子どもたちにボートレーサーになることを勧めたことがありますか?

◆日高逸子選手―――ボートレース芦屋のペアボート試乗会で、娘たちを乗せたことがあるんです。一般のファンの方たちが乗った後に乗せたんですが、特に何も…。

「軟弱な面があるから、やまとに行って鍛えてもらったら」とか言うんですけど(笑)。

◆夫・邦博―――その時のペアボート、僕は同じ福岡支部の大神康司選手に乗せてもらったんですよ。

そうしたら「奥さんにレースでいつもイジメられてますから」と冗談半分でしょうが、すごい走りっぷりで(苦笑)。

◆日高逸子選手―――でも、娘たちがテレビ取材に「何でもできる母を尊敬しています」と答えてくれているのを見たときは、ビックリしました。

いつも私に文句ばかり言ってくるのにね(笑)。

―――平成女性ボートレーサーに対して真っ向から勝負に挑む、日高逸子。通算賞金10億円超えの女帝58歳は、さらに進化した走りを水上でみせてくれるはず。
 
 
<第1回>
通算獲得賞金10億円!競技人生35年、水上の格闘技で勝ち続ける秘訣と夫の支え――女性ボートレーサー日高逸子の過去いま未来 <1>
https://tetsudo-ch.com/9979244.html
<第2回>
通算賞金10億円 女帝58歳のオンとオフ、夫のサポート、闘い続ける気持ち――女性ボートレーサー日高逸子の過去いま未来 <2>
https://tetsudo-ch.com/9982044.html

<プロフィール>
◆日高逸子
1985年デビュー。宮崎県出身、福岡県在住。58歳。通算優勝73回。1989年と2005年に女子王座決定戦(現 レディースチャンピオン)、2014年にクイーンズクライマックス制覇。2005年に年間獲得賞金5718万円。今年も3000万円を超えた。
◆日高邦博
新潟県出身、福岡県在住。58歳。東京で日高逸子さんと出会い、1996年に結婚。夫婦の間には2人の娘がいる。新しい夫婦の形を実践し、本を出したり、講演会をこなすことも。

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