日本人形の名工、永徳齊をルーツとし、東京・銀座でマネキンや店舗内装・VMD・什器デザインなどを手がける空間一式コーディネイト企業―――トーマネ。
そんなトーマネが手がける和紙マネキン「Waltz」(ワルツ)が、2022年度グッドデザイン賞を受賞。「伝統工芸の素材と技術を応用することで、環境負荷の軽減やリサイクル性の向上を実現しながら、同時に軽量化による設置性の向上など、製品に求められる機能にも貢献している」と評価された「Waltz」(ワルツ)がいまなぜ注目を集めているか―――。
超軽量、脱プラ&有機溶剤不使用で労働環境の改善
トーマネの和紙マネキン「Waltz」(ワルツ)は、茨城県常陸大宮市にある無形文化財「西ノ内和紙」を素材とした和紙でできたマネキン。
FRP(強化プラスチック)の自社製品と比較し、約80%減の軽量化に成功し、脱プラスチックや、有機溶剤不使用による労働環境の改善を実現。
日本文化と環境に配慮し、成形したマネキンは再び和紙に戻すこともでき、リサイクル可能な点も特長。和紙マネキン「Waltz」(ワルツ)のおもな特長は、次の5つだ↓↓↓
ナチュラル、軽量、環境性、リサイクル性、地域貢献
◆1 ナチュラルな素材―――茨城県常陸大宮市にある無形文化財「西ノ内和紙」(那須楮 100%)を素材として開発。
◆2 従来製品との違い―――和紙を素材とすることで、重量を(同社比)80%減の軽量化に成功。
◆3 労働環境への配慮―――軽量化により、輸送コスト・組み立てに関する重労働・労働時間の削減にも貢献。製造の過程で有機溶剤を使用せず、研磨の必要性もないため、粉塵の発生もない。
◆4 リサイクル―――成形した「Waltz」は、再び和紙に戻すことができる。
◆5 地域貢献―――「Waltz」は「西ノ内和紙」を素材として使うことで、「西ノ内和紙」の需要を生み出し、認知を拡大することで、無形文化財を後世に残すためのきっかけや、地域を盛り上げる可能性が含まれている。
ここでまず注目したいのが、和紙マネキン「Waltz」の環境性能
トーマネ担当者は、和紙マネキン「Waltz」の環境性能について、「軽さゆえの輸送コストの削減」「広がらない楮(こうぞ:和紙原料)の植栽場で、新たに森林伐採をする必要がない」「製造の過程で熱が発生することがない」の3点をあげる。
また、成形した和紙造形を再び和紙に戻すことができるため、従来の FRP を素材としたマネキンの廃棄方法とは違い、可燃物として廃棄できる。
いっぽう、現状のマネキン人形の多くは、ガラス繊維とポリエステル樹脂の複合素材である FRP(強化プラスチック)でつくられ、廃棄するさいは金属部分をマテリアルリサイクルとして、FRP部分をセメント製造時に燃料・原料として循環させている。
この製造工程で有機溶剤の使用は避けられず、有機溶剤は揮発性が高く、蒸気になると作業者の呼吸を通じて体内に吸収されやすく、皮膚からも吸収されやすいことから、有機溶剤を取り扱う職場で就業する作業者にとっては中毒性やシックハウス症候群などの疾病を引き起こす弊害も課題だった。
こうした課題を解決すべく、「Waltz」の製造過程では、和紙の他ナチュラルなものを基本材料とし、有機溶剤を一切不使用に。作業者は安全な労働環境のなかで製造に取り組めるようになった。
シンプルな日本の素材を使用、労働環境や自然環境に優しい製法で
トーマネ開発陣は、Waltz にこんな想いを込めて開発・製造に取り組んできたという。
「現在のマネキンで使う FRP(強化プラスチック)素材は、昭和33年ころから現在も 約64年その製法は変わっていません。
ただ、日本は「世界で唯一」、マネキン人形を含めたディスプレイ商品を「レンタル」するというシステムがあり、完全回収型なので FRP部分はセメントの原燃材料となり、ジョイントなどの金属の部分はマテリアルリサイクルとして再度原料とした100%完全なリサイクルシステムがあります。
いっぽうで、プラスチック資源循環法・プラスチック資源循環促進法が施行されることによって、新たにまったく異なる素材と、トーマネの造形力を使ってつくりあげる必要があると感じていました。
そこで、「身近で誰もが知る、シンプルな日本の素材を使用」「われわれの工場と倉庫が長くある、茨木県に何らかの地域貢献をする」「労働環境や自然環境に優しい製法であること」の3つを実現すべく、調査・研究を重ねたところ、茨木県常陸大宮市にある無形文化財である西ノ内和紙にたどり着きました」(トーマネ)
日本文化と造形技術を海外へ
「西ノ内和紙は、原料を那須楮100%とした和紙です。350年もの歴史を持ち、水に強く、文字が消えにくいその特徴から、江戸時代には出納帳として使用され、火事が起こればそれを川などに投げ入れて難を逃れたといわれています。
また楮(こうぞ)100%を使用したその和紙は毛足が長く、マネキン人形を含めた造形に使用できそうだと考えました。
製作にあたっては、何体ものプロトタイプ(試作品)を製作しながら、湿度や乾燥を調べる紙片検査を行い、強度をさらに出すためにナチュラルな素材とボンドの相性などをデータ化していきました。
現在では経営に関わるスタッフもその製造方法をマスターしながら、工程の時間短縮などを探っています。また、和紙を貼るさいに必要な和紙加工の特許も取得し、他の造形でも、同じように和紙での製作を可能にしました」(トーマネ)
ちなみに製品名は、日本の文化と造形技術を海外へ運ぶことも視野に入れ、英語も含め海外共通言語である「Waltz」とネーミング。「Waltz」には、「いっしょに軽やかに踊ることができるほど軽い」という意味も込められているという。
ワルツを横展開し、増産・海外展開めざす
トーマネは今後、受注生産を想定した和紙マネキン「Waltz」(ワルツ)の量産体制を整え、増産をめざしていくという。
「ワルツの製造方法は、形のあるものだったらすべてに対応できることから、マネキン人形だけではなく、あらゆる造形に置き換えることにチャレンジし、環境に配慮した造形を、ものづくり企業として提案しいきます。また海外にも Made in Japan としトーマネの技術をアピールしていきたいと思います」(トーマネ)
さらに、無形文化財である「西ノ内和紙」の雇用・文化の継承を支援していくというから、今後のトーマネの動きに注目だ。