デジタルテクノロジーの活用により、新しいビジネスやサービスを生み出すことが求められるDX時代。そんなDX時代において、注目されているのが「リスキリング」です。
経済産業省の定義によるとリスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」とあります。企業側の視点に立つとIT技術の発展により業務内容が変化していく昨今において、リスキリングの推進により、現在の社員のスキルと事業計画に必要なスキルを一致させ、人材流失を防ぎつつデジタル領域の事業成長にも対応することができます。デジタル化によって消失する雇用を守るべく、日本政府は「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明し、それに付随した助成制度も作成されました。
日本のリスキリングに対する課題
政府が積極的に推進していることもあり、日本でも「リスキリング」という言葉の認知が向上しています。一方で、各企業ではリスキリングのための「人への投資」はまだ検討段階であったり、試行錯誤中であったりとまだあまり進んでいない現状があります。課題の一部には、まとまった学習時間が必要なリスキリングを就業時間外に実施し課題を消化する、支援制度を設定するものの自由選択とするなど、企業側のコミットメントが弱く、個人の自主性に依存していることが挙げられます。また、リスキリングを行ったとしても昇給や昇格につながるインセンティブの設計がなく、優秀な人材の流失も懸念されます。個人任せという面では、必要なスキル・人材に適切な業務・機会の振り分けができていないことも問題と言えるでしょう。
ディズニー社や世界最大の日用品メーカーであるP&Gといった名だたる大手企業のリスキリングを請け負う「General Assembly(以下、GA)」は、今後日本においてリスキリングのレベルを高めていくための課題について、「企業が行うリスキリングと経営戦略が結びついていないケースが多い点」、「人材への投資を決断できていない企業が多い点」といったポイントを指摘しています。
「GA」が提唱する日本でのリスキリング解決策
2011年にニューヨークに設立された「GA」は、これまで世界規模でデジタル教育に特化したプログラムを提供してきました。同社は日本におけるリスキリングの課題を解決する策として「企業トップ主導で推進し、経営戦略と結び付けて計画的に実施する」、「社員に対するインセンティブをきちんと設定する」、「業務時間内にリスキリングの時間を設定する」という3つのポイントを挙げています。
「GA」の日本国内での実績を見てみると、社長をはじめとする役員から現場まで全階層向けに複数のプログラムを導入しています。プログラムを終えた社員たちは、様々な部門で能力を発揮し新しいサービスの企画や既存プロセスの改善などに尽力。リスキリングがもたらす効果を社内全体に波及させているケースも多々あります。また、一部社員に限らずプログラムを実施することで新しい価値観や現状の理解が一致し、これまで以上にコミュニケーションが円滑化されるというのも大きな導入成果と言えるでしょう。
「GA」が提唱する日本のリスキリング課題と解決策を見てみると「リスキリングは個人で進めるものではなく、企業が責任を負い、企業全体で行わなければいけない業務の一環」と考えるべきでしょう。社員それぞれが受け持つ業務を整理し、社内全体で業務としてプログラムの受講を促します。そして、身につけたスキルに見合った機会や待遇をきちんと用意することが重要です。
リスキリングという言葉が台頭している昨今。多くの企業がリスキリングに取り組み始めました。リスキリングは今後、日本国内の労働力人口がますます減少し、世界規模で人材の獲得競争が進む中で、「必ずやらなければいけない」社会課題であることは明白です。企業が主体となって取り組み、投資を実行できるかが今後を左右することになるでしょう。