「熱中症予防には脱水回避とともに免疫のケアが重要であることが医学的に知られています。
キリンが発見した「乳酸菌L.ラクティス プラズマ(プラズマ乳酸菌)」を添加すると、インターフェロンαは37度で培養した時の約25倍も分泌され、通常時以上の免疫細胞の動きを見せることが証明されました」
―――そう伝えるのは、東海大学 医学部 総合診療学系 健康管理学領域 西崎泰弘 主任教授 医学博士。
キリンホールディングス ヘルスサイエンス研究所の研究成果発表を受けての説明だ。
“免疫の司令塔”pDCがカギ?熱中症と免疫ケアの意外な関係
pDC は“免疫の司令塔”とも呼ばれ、この細胞を活性化させることで、免疫細胞全体を活性化させることが一般的に知られている。
キリンHD ヘルスサイエンス研究所は、高温条件下で働きが鈍る免疫細胞に対して、キリンの独自素材「プラズマ乳酸菌」を用いた細胞試験を実施し、プラズマ乳酸菌の添加によって高温条件下における免疫細胞 pDC の働きの鈍化(pDC活性化指標の低下)が抑制されることを新たに確認した。
つまりこれは、たとえば猛暑での気温上昇などで免疫の司令塔pDCの働きが鈍ってしまうところ、プラズマ乳酸菌の摂取によりそれが抑制されることで免疫ケアにつながり、熱中症予防になる可能性があることを示唆している。
プラズマ乳酸菌によって高温下で 鈍ってしまう免疫細胞の 活性が維持
試験内容を読み解くと、ヒト由来の pDC を通常温度(37度)、もしくは高温(38.5度)で培養し、H1N1(不活化インフルエンザウイルス)のみを添加する、もしくは乳酸菌L.ラクティス プラズマ(プラズマ乳酸菌)と H1N1 の両方を添加した細胞の48時間後の IFN-α(インターフェロンαという抗ウイルス性物質)産生量を測定。
高温条件下において、pDC の働きが低下するが、プラズマ乳酸菌を添加した細胞の場合は働きの鈍化が抑制される傾向が確認された。
この結果は、プラズマ乳酸菌が高温条件下で低下する pDC の活性を維持する有効な手段のひとつとなることを示唆した。
こうした研究成果を受け、西崎教授はこう解説する。
免疫のケアと飲水が熱中症を予防
「熱中症は、脱水と深部体温上昇がもたらす死に直結する病態で、昨年の5-9月は、過去最高の9万7578人が救急担送され、うち120人が死亡、2178人が3週間以上の入院を要しました。
熱中症による死因は「多臓器不全」であることが多いのですが、熱中症予防には脱水回避とともに免疫のケアが重要であることが医学的に知られています。
熱中症モデルによる解析によって、エンドトキシンと呼ばれる腸管内の毒素が、高体温や脱水からくる免疫の異常すなわち不活発化によって拡散され、「エンドトキセミア」と呼ばれる状態となって重症化に至ることが判っています。
気温が高い時、ヒトは汗をかいて表面温度を下げ、結果的に深部体温を下げます。
しかし、エンドトキセミアによって惹起される「サイトカインストーム」は、身体の中から発熱するため直接的に深部体温を上げてしまうのです。
最終的にエンドトキセミアは、全身性の炎症反応を引き起こし、多臓器不全に至ってしまうわけです」(西崎教授)
研究内容について解説 pDC をヒト体内温度と同じ37度などで培養
「本研究ではまず、免疫の司令塔であるプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)をヒトの体内温度(深部体温)と同じ37度と38.5度で培養しました。
そして次に、その培養槽にインフルエンザAの H1N1 の抗原を添加しました。
H1N1 抗原とは、インフルエンザAウイルスのひとつの構造であり、1918年のスペインかぜ、1977年のソ連かぜ、あるいは2009年に世界的流行した新型インフルエンザが持っていた構造です。
抗原のみでは増殖力を持たないため感染は成立しませんが、感染時と同様の免疫刺激作用は発揮されます」(西崎教授)
プラズマ乳酸菌添加をした細胞では鈍化抑制の効果
「48時間混合培養した結果、37度では pDC よりウイルスの増殖を抑制するインターフェロンα(IFN-α)が分泌されましたが、38.5度ではその分泌が抑制されていました。
すなわち38.5度の環境下では、pDC は有効にインターフェロンを分泌できず、従ってウイルス感染を防御できないとの結果です。
しかしながらキリンが発見した「プラズマ乳酸菌」を添加すると、インターフェロンα は37度で培養した時の約25倍も分泌され、活性化することが証明されました。
日ごろからの免疫のケアと飲水が熱中症を予防します。みなさんもぜひ取り組んでください」(西崎教授)
―――今回の研究成果は、7/29「微生物ウィーク2025」(主催:東京大学微生物科学イノベーション連携研究機構(CRIIM)、東京大学大学院農学生命科学研究科)で発表された。