
12月6日、東京都町田市の芹ヶ谷公園で「Future Park Lab 2025 Winter」が開催されました。
この催しは、文化芸術活動や豊かな自然に親しんでもらうため、町田市が主催している市民参加型イベントです。
12月らしい寒さのなか、会場には親子連れを中心に多くの参加者が足を運んでいました。
公園内の芝生広場に集まっていたのは、玉川大学(東京都町田市)のワークショップに参加する子どもたちです。
緑の物語をつくるワークショップ「未来の地球をまもるバイオ炭づくり体験 ~焼き芋も楽しもう!~」と題し炭づくりとともに薪割り、焚き火、焼きいもといった体験を通して、楽しみながら地球環境の大切さを学んでいました。
地球温暖化対策に貢献するバイオ炭

今回のワークショップは、町田市の「『まちだの木』活用プロジェクト」と、玉川学園の「Tamagawa Mokurin Project」の連携事業の一環として実施されたもの。
地域の木、枝、竹などの自然素材を有効活用しながら、未来を担う子どもたちやその保護者に向けて学びの場を提供し、持続可能な地域社会の実現を目指す取り組みです。
今回作るバイオ炭とは、生物資源(バイオマス)を熱分解することで生成される炭のこと。
炭として大気中の二酸化炭素を貯留しておくことができ、地球温暖化対策への貢献が注目されています。
今回のワークショップでは、バイオ炭の原料として、芹ヶ谷公園内の森林整備のため伐採・採取された木や枝、さらに玉川大学の学生たちが学内の竹林から伐採した竹が使われました。
ちなみに、この竹は数日前まで玉川学園のキャンパス内で行われていた「竹あかり・ゆらぎの丘」というイベントで使われていたもの。
イベント終了後も廃棄・焼却して終わりにするのではなく、バイオ炭に加工して有効活用します。
薪割り・竹割りに挑戦

講師を務める玉川大学 農学部 生態系生態学研究室の友常満利准教授の指導のもと、小学生を中心とする参加者たちは炭にする材料を作るために薪割り・竹割りに挑戦します。
研究室の学生や保護者の方々のサポートを受けながら、ノコギリや斧、竹割り器を手に取る子どもたち。
慣れない作業にはじめは恐る恐るといった様子でしたが、だんだんとコツを掴み、男の子も女の子も夢中になって楽しんでいます。
中には硬くてなかなか割れない竹に苦戦する子もいましたが、諦めずに道具を動かし、上手に割れると周囲から拍手や歓声が上がりました。
玉川大学キャンパス内の農場で農学部学生が育てたサツマイモを

割れた木や竹、拾い集めた枝を、開放型炭化器に投入して着火。
ある程度火が回ったところで、アルミホイルで巻いたサツマイモを入れ、炭化で発生する熱を利用してゆっくりと焼いていきます。
このサツマイモも、玉川大学キャンパス内の農場で農学部学生が育てたものです。
作業の様子を見守りながら、友常先生は子どもたちや保護者の方々に向けて、バイオ炭を活用することの意義について語りかけます。
子どもたちは火の様子を気にしながらも、先生の話にしっかりと耳を傾けていました。
「普段皆さんがバーベキューなどで使っている炭の多くは、海外産のマングローブを使ったものです。
日本の森林には木や竹など燃料になるものがたくさんあるのに、それらは放置してわざわざ海外から仕入れているなんて、もったいないですよね。
私たちは地域の未利用材などをバイオ炭に変えて、森や農地に蒔く研究をしています。
炭によって二酸化炭素を貯留し、また土に撒くことで植物や作物の育ちが良くなり、二酸化炭素の吸収量も高めることができるのです」(玉川大学農学部 友常満利准教授)
炭化の熱で温まりながらバイオ炭について学ぶ


緑地への散布のほか、消臭や濾過に使える吸着剤、花炭(はなずみ/花や木の実をそのまま炭にしたアート)など、様々なバイオ炭の活用法も紹介されました。
実際の炭を手に取ってみたり、間近で観察したりと、子どもたちも興味津々の様子です。
炭化を始めてから3~40分ほどが経過し、お待ちかねの焼き芋が完成。
中までしっかりと火が通ったサツマイモは、ホクホクの食感で甘みたっぷり。
子どもも大人も笑顔でかぶりついています。
中には、持参したマシュマロを枝に刺して焼いて楽しむグループも。
自分たちで炭の材料から準備をしたことを思うと、さらに美味しく感じられることでしょう。
自分の目で見て、手を動かして、体験することが大切

生態学を専門として、普段は森の成り立ちや森に生息する動植物の生態について研究している友常先生。
今回のワークショップについて、「バイオ炭が地球温暖化の解決に資する材として注目されているなか、バイオ炭づくり体験を通して、特にこれからの社会を担う子どもたちに『森を守るとはどういうことか』を知ってもらう機会にしたかった」と企画の意図を語ります。
さらに今回、友常先生は薪割りや火の扱いを、実際に子どもたちに体験してもらうことを重視したといいます。
「実際に、自分自身で体験してみなければわからないことはたくさんあります。
何でもかんでも『危ないから』と遠ざけるのではなく、大人が見守る中で体験させてあげたいという思いがあり、あえて子どもたちにノコギリなどの刃物を使ってもらいました。
子どもたちが怖がらずに楽しんでいる姿を見て、改めて体験することの大切さを感じました。参加していただいた保護者の方々にも、自然と触れ合うこと、自然を守ることの大切さを理解してもらう機会になっていたら嬉しいですね」(友常先生)
自然環境保護は、まず身のまわりから取り組んで

会場では、友常先生の研究室に在籍する学生たちが大活躍。
普段の授業やフィールドワークで得た知識と経験を活かし、子どもたちや保護者の方々との会話を交えながら、手際よくサポートに励んでいました。
「普段はバイオ炭を使った地球温暖化防止策の研究をしています。
バイオ炭が温暖化対策にどうつながるのか、子どもたちにも理解できるよう説明するのは結構難しいこと。
まずは今回のワークショップなどの活動を通して、『身のまわりの小さなことからでも地球環境にやさしくすることはできるんだよ』ということが子どもたちに伝わればいいなと思います」(大学院農学研究科修士1年 和田日向子さん)
「参加者の皆さんが楽しんでくれて何よりです。
地球温暖化対策などの話は子どもたちには難しかったかもしれませんが、寒い中で体を動かして、火で温まって焼きイモを食べる、それだけでもすごくいい体験ですよね。
専門知識がない方にバイオ炭について説明するので、自分たちにとっても“伝え方”を学ぶいい機会になりました」(農学部4年 松尾旺さん)
「バイオ炭の一般化を目指し、入手性の高い笹をバイオ炭にするための研究をしています。
研究をする中で『この分野のおもしろさ・魅力をもっといろんな人に知ってほしい』という思いがあったので、今回参加できて良かったです。
子どもたちも楽しそうで、やって良かったなと思います」(農学部4年 皆川拓己さん)
「まずは自分の身の回りの自然に目を向けて」と

友常先生は「いずれ炭焼きをすることが地域で当たり前になれば、森林の定期的な管理で放置林がなくなり、地球温暖化対策への貢献、地域コミュニティーの発展など、様々な好循環を生むことが期待できる」と、バイオ炭の持つ可能性について語ります。
そして、参加者に「まずは自分の身の回りの自然に目を向けて」と投げかけました。
「自宅の庭や花壇などを定期的に管理して、きれいに保つことから始めてほしいですね。
身近な課題解決や、自分の周囲の幸せを実現できなければ、地球温暖化対策や環境保全といった大きな問題を解決することはできません。
まずはご家族と一緒に、地域住民の一人として身の回りのことに取り組むことから始めてみてほしいと思います」(友常先生)
最後はきちんと消火する様子も見せ、安全を確かめてワークショップは終了。
薪割りの楽しさや焼き芋の美味しさとともに、バイオ炭の活用法や自然を守る大切さも、きっと子どもたちの記憶に刻まれたことでしょう。
◆玉川大学
https://www.tamagawa.jp/university/
◆玉川大学 農学部
https://www.tamagawa.ac.jp/college_of_agriculture/

