日本国内の切実な学校教育事情―――「教員の労働生産性」を上げると、「教育効果」「個別最適な学び」は下がる。
逆に「教育効果」「個別最適な学び」をアップさせようとすると、教員の負担が重なり「教員の労働生産性」は落ちる。
―――そんな反比例のジレンマに陥っている国内学校教育の現状を、「教育テックトレードオフ理論」と「教育テックDip & Jump理論」でブレークスルーをめざすのが、大阪キリスト教短期大学 OCC教育テック総合研究所。
https://www.occ.ac.jp/iite/
「第1回OCC教育テックフォーラム」で最新動向を共有
大阪キリスト教短期大学付属の研究機関として保育・幼児教育におけるアナログとデジタルの融合を研究すべく、2023年4月に新設されたばかりの OCC教育テック総合研究所は、8月10日、東京・市ヶ谷のリアル会場とオンライン配信で「第1回OCC教育テックフォーラム」を開催。
大阪キリスト教学院 理事長 OCC教育テック総合研究所 根岸正州 所長の最新動向説明をはじめ、埼玉県戸田市教育委員会 戸ヶ崎勤 教育長の基調講演、大阪府教育庁教育振興室 仲谷元伸 室長の事例報告などを開催。
また、同志社大学教授 OCC教育テック総合研究所 山田礼子 副所長、文部科学省 初等中等教育企画課 堀野晶三 課長、武蔵野大学 千代田国際中学校 日野田直彦 校長、もと小金井市教育CIO補佐官 MAZDA Incredible Lab 松田孝 CEO、七松幼稚園 亀山秀郎 園長、大阪キリスト教短期大学教授 OCC教育テック総合研究所 河崎雷太 副所長らが登壇し、「教育テックで個別最適な学びと働き方改革の同時実現を」と題したパネルディスカッションで、参加した学校・幼稚園・保育所教職員、自治体の首長・職員・教育委員会、学生、教育関係者らと教育テック最新動向を共有した。
「教育テック導入でジレンマを解消し、同時実現」
大阪キリスト教学院 理事長 OCC教育テック総合研究所 根岸正州 所長は冒頭、前述のような「教員の労働生産性」と「教育の効果」の反比例するジレンマを解消する手段として教育テックをあげ、トレードオフ解決の方向性を説き、「教育テックの導入により、そのジレンマを解消し同時実現することで、両者の総和(斜線部分)を高め、教育の新しい可能性を開拓する」と伝えた。
「いったん効率・生産性が落ち、そのあと飛躍」
また、民間企業などと同じく、教員・生徒が ICTサービスを活用した新しい実務プロセスを導入し、業務改革を図ろうととした場合、新しいプロセスを理解・適応するため、一時的に業務の効率・生産性が低下するという事実も伝え、「その期間を最小限に抑えるための事前の計画、たとえばリソースを分散し、段階的な導入・トレーニングを行うなどの策定が重要」と説いた。
「教員・生徒がICTに習熟し、その活用度合いが高まれば、高まるほど、総合教育価値が向上する。従来、したくてもできなかった教育をICTを活用することにより、実現可能となり、総合教育価値がICT導入前よりも、飛躍的に向上(Jump)させていける」(根岸正州 所長)
教育テック導入後の教育&労働環境の未来像も共有
OCC教育テック総合研究所はこれまで、大阪府立高校生 約11万人に配布した学習端末の効果的な活用について共同研究するほか、モデル校 30校の教員研修を実施。
府立高生11万人・モデル校30校のデータ分析・共同研究・教員研修を経て、8月にはOCC教育テック総合研究所と大阪府教育委員会がリーディングGIGA ハイスクール事業における共同研究・教員研修に関する協定を締結した。
こうした取り組みを加速させるOCC教育テック総合研究所は、今回の「第1回OCC教育テックフォーラム」で、OCC教育テックが普及した社会の学校の未来予想図についても公開し、めざすべき教育現場像を共有した。
教育テック導入後の「個別最適な学び」は、個別学習カルテやダッシュボードで誰も取り残さない教育が実現。個性に応じた学習環境を学外の地域・社会・家庭と実現できると想定。
同じく教育テック導入後の「教員の働き方改革」は、ワークシェアリングで高度な教育機会の提供と教員の負担削減が期待でき、DXで生み出された時間を子どもと向き合う時間に転換でき、「個別最適な学び」と「教員の働き方改革」が好循環するという。
「OCC教育テック総合研究所とエビデンスベースで効果分析を」
前述のように、OCC教育テック総合研究所とリーディングGIGA ハイスクール事業における共同研究・教員研修に関する協定を締結した大阪府教育委員会も、「第1回OCC教育テックフォーラム」で最新動向を共有。
大阪府教育庁教育振興室 仲谷元伸 室長は、府立高生11万人に11万台の Chromebook を提供し、ICT環境整備や教員研修、効果分析を展開してきた効果について、こう伝えた。
「生徒はフィードバックまでのサイクルが短縮し、反復が可能になった。また、個々の能力や店舗に合わせた学習を可能にした。
教員は、教職員のアナログな作業時間が大幅に減り、エラー率も減少した。また、教職員間で共通認識が図りやすくなり、組織的なマネジメントにつながった」(仲谷元伸 室長)
またこれまででみつかった課題については「授業の導入やまとめ、加害での Chromebook 活用は定着してきたが、授業中にスムーズに活用するための教材や指導法・スキルが不足している。教員のリテラシーやモラルの向上、クラウドサービスなどの仕組みの理解も必要」と伝えた。
今後の方針については、「府立高校全体への Chromebook 導入に向けて普及させ、OCC教育テック総合研究所の協力を得ながら研究機関の知見を活かし、エビデンスベースで端末導入の効果などを分析していきたい」と期待した。
「ほんとうに大切な教育改革は学校現場から起こるべき」
さらに、埼玉県戸田市教育委員会 戸ヶ崎勤 教育長は「戸田市で貫いてきた教育改革のコンセプト」「学校は内側からしか改革することはできない」「産官学との連携」「ICTのマストアイテム化」「インクルーシブ教育の推進」「働き方改革の推進」「EIPPとオルタナティブ教育の挑戦」など各テーマについて基調講演。
インテル(intel)、やマイクロソフト(Microsoft)、グーグル(Google)をはじめ、東京大学・慶応義塾大学・早稲田大学・東京学芸大学など、産官学で連携し「学校改革のトリガー」を探ってきた戸田市。
そんな戸田市が積極的に展開している PBL(Project Based Learning:問題解決型学習)について、戸ヶ崎勤 教育長は「課題設定・情報収取・整理分析・まとめ・プレゼン・共有のすべてのプロセスで、ICT活用が加速することで、実生活・実社会へのつながりも深まる」と伝え、教育テック普及に向けて戸田市教育委員会としての決意をこう強調した。
「ほんとうに大切な教育改革は、国や教育委員会からではなく、学校現場から起こるべき。そのために、教育委員会のマネジメントを『一律の管理』から『個別の支援』へとシフトさせ、教育委員会は『学校に伴走し、積極的な自走を支援し、逸走や暴走を軌道修正するところ』でなければならない」(戸ヶ崎勤 教育長)
戸ヶ崎勤 教育長はまた、こうした学校改革の最新動向について「教育・学びの未来を創造する プラットフォームin戸田 第8回」でも伝えていくとアナウンスした。
https://dai8-platform-in-toda.peatix.com/view
―――これまで2万人以上の教育者養成実績や幼稚園・保育園運営で培った経験を、テクノロジーと結びつけることで、教育現場に集積する暗黙知を形式知へと押し上げ、個別最適な学びの創出と産業課題である働き方改革の実現を目指すOCC教育テック総合研究所。
今回の「第1回OCC教育テックフォーラム」は、東京・市ヶ谷のリアル会場はほぼ満席となり、多くの教育関係者たちが教育テック導入に向けた最新動向を共有した。
OCC教育テック総合研究所は今後、さらにテクノロジーを最大限に活用することで、生徒一人ひとりに向き合う新しい教育のかたちをつくり上げていくという。
https://www.occ.ac.jp/iite/
※埼玉県戸田市教育委員会 戸ヶ崎勤 教育長とOCC教育テック総合研究所 河崎雷太 副所長の「崎」は、正しくは「﨑」(機種依存文字)。