東京大学は12月3・4日、韓国 Chey Institute for Advanced Studies とともに「Tokyo Forum 2020 Online」を開催。「持続可能な人類社会の実現に向けてタイムリミットは10年」とし、その鍵となる「グローバル・コモンズ」をテーマに、世界中の有識者たちが議論した。

東京フォーラムは、地球と人類社会が直面する課題について、異なる背景をもった多様な人々が自由に情報と意見を交換し、課題解決の方策を検討し提案する場。

「Shaping the Future」(未来を形作る)を包括的テーマに10年間にわたって開催するフォーラムで、第2回目の今回は、オンライン配信で開催。合計4000名を超える視聴応募が集まった。

今年のテーマは、「Global Commons Stewardship in the Anthropocene」(人新世におけるグローバル・コモンズの管理責任) 。

人類は安定した地球環境に恵まれた約1.2万年の完新世(Holocene)で、文明を世代から世代に引き継いで発展させ、今日の繁栄を築きた。しかし同時に、地球温暖化や大規模な生態系の破壊を引き起こし、新しい地質時代「人新世」(Anthropocene)に入ったといわれいる。

昨今では異常気象や COVID-19 などの新たな感染症などの危機的状況も起きているなか、地球環境が、人類が共有し、協働して管理・保全すべき「グローバル・コモンズ」(人類共有の地球環境)であることを再認識し、それを健全な姿で未来の世代に引き継がなければならないといわれている。

ことしの Tokyo Forum 2020 Online では、東京大学理事でグローバル・コモンズ・センター ダイレクターを務める石井菜穂子氏や、ポツダム気候影響研究所所長のヨハン・ロックストローム氏が登壇するハイレベル特別対話セッションをはじめ、5つのパネルディスカッションを実施。

科学的な見地から、持続可能な人類社会の実現に向けた2030年までの10年間の取り組みの重要性を認識し、グローバル・コモンズ保護にむけた方向性・取り組むべきことを熱く議論した。

東京大学 五神真 総長「グローバルコモンズを守る新しいアプローチに」

まずは、東京大学 五神真 総長、韓国SKグループ CHEY Tae-Won 会長による開会挨拶からスタート。

新型コロナウイルスの影響が世界中で収束しない状況下で、本フォーラムの開催趣旨や、今回のテーマを「グローバル・コモンズ」と設定した意味・その重要性を訴えた。

「『Shaping the future』という全体テーマのもと、ことしは『人新世におけるグローバル・コモンズの管理責任』に焦点を当てています。このフォーラムでの議論がグローバルコモンズを守っていくための新しいアプローチに光を当て、韓国と日本にとって有益なものになることを願っています」(東京大学 五神真 総長)

「わたしたちは、現在自らの生存のために環境破壊に挑まなければならないという新しい時代に入りました。いま、わたしたちは自らの悪い行動を制御し、変える新しい方法やシステムを見つなければならない状況にあります。Tokyo Forum は、この取り組みについてわたしたちを導き、啓発することができる機会になるかもしれません」(CHEY Tae-Won 会長)

グローバル・コモンズを守るための国際協力

続く基調講演では、Jeffrey Sachs氏(コロンビア大学University Professor、国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク所長)、LEE Hoesung氏(気候変動に関する政府間パネル議長)が登壇。

Jeffrey Sachs氏は「グローバル・コモンズを守るための国際協力」をテーマに、LEE Hoesung氏は「自然と人間の関係性」をテーマに講演。

持続可能な人類社会の実現に向けた最先端の活動に取り組むオピニオンリーダーの立場から、世界全体で取り組むべき地球規模での課題や今後の展望について語った。

「RCEPの例のように、地域協力が進んでいるということをとても嬉しく思っています。また、その先でグローバルに世界中の国々が2021年という重要な年に向け連携をして、まずパンデミックを抑え込む、そして持続可能な開発・気候の安全に向けて、新たな一歩を踏み出すということが重要だと思っています」(Jeffrey Sachs氏)

「我々は、閉鎖系の中で生きているということを認識することで、気候問題に緊急に対応しながら、地球が提供するサービスの範囲内で発展を続ける方法を模索できるようになるでしょう。次の課題はスループット経済のモデルから離れて、循環型経済につながる基礎を築くことです。これが現在のこの人新生の時代における人類の永続的な責任かもしれません」(LEE Hoesung氏)

High Level Special Dialogue

ハイレベル特別セッションには、グローバル・コモンズ保護に向けた方向転換を数年に渡って世界中に訴えかけてきたリーダーたちが登壇。

2015年12月、UNFCCCのCOP21で「パリ協定」が採択され、世界中でSDGsに向けた取り組みが開始されたが、まだ十分ではない。

最新の気温上昇は産業革命前と比較して1.2倍になるなど、膠着状態が続き、いかに現状を打破するかが求められているなか、世界経済フォーラム(WEF)取締役員の Dominic Waughray氏がモデレートし、議論を展開した。

登壇者である Christiana Figueres氏(Global Optimism共同創立者、前国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長)らはそれぞれの立場から見解を述べ、2030年までの10年間で速いスピード・大きなスケールでグローバル・コモンズ保護に取り組まなければ、それ以降は地球が制御不能になるという科学的な認識を共有。

日本では、政府が「2050年ネットゼロ」を表明。2020年8月に東京大学で「グローバル・コモンズ・センター」を立ち上げた石井菜穂子理事(東京大学理事、グローバル・コモンズ・センター ダイレクター)はそのことにも触れながら、10年間での取り組みを加速させて日本のコミットメントを実現するために、投資家・企業・国民などのマルチステークホルダーの意思決定の支援に取り組んでいく姿勢を強調した。

Covid-19はグローバル・コモンズに大変革をもたらすか?

Covid-19パンデミックは人類社会に甚大な被害を及ぼし、死亡者数は150万人、感染者数は6400万人に達するなかで、世界的な貧困者数は増加。飢餓のパンデミックも引き起こしている。

また Covid-19 の発生は、人類が自然のシステムに近づき過ぎた結果の事象であり、気候変動や生物多様性と同じ問題として取り組むべきと考える。

世界資源研究所 気候・経済副所長の Helen Mountford氏がモデレーターを務め、いまの状況下でグローバル・コモンズの管理をどうすべきか話しあった。

ディスカッションでは、世界的に経済が長期的な打撃を受けているなかでいかに回復へ向かい、またいかによりよくグローバル・コモンズを管理できるか、を考えたとき、課題は非常に多いと指摘した。

いっぽうで、希望を持てる意見も。パンデミックによって都市封鎖が行われたことで市民が環境汚染が止まったメリットを実感したり、従業員の雇用を守った企業の業績が上向きになったりといった事象も例に挙げながら、Covid-19 の影響が転換点となってグリーン・グロースへの意識が世界で向上しつつあることもわかってきた。

2030年以降は、グローバル・コモンズが失われるという危機感を持ちつつ、Covid-19 という未曾有の危機をチャンスに転換し、さまざまな課題に取り組んでいかないといけない。そのためには科学に耳を傾け、何をすべきかが極めて重要である、と強く認識した。

グローバル・コモンズの管理責任を促す枠組みと指標の開発への挑戦

グローバル・コモンズの保護に向けて残された時間が多くないことを踏まえ、4日のプログラムではシステムを劇的に変えるための具体策を探求。

初めのセッションは、東京大学が国際的な公共財となるように開発をすすめた「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ指標(GCSi)」を中心に議論。

日本・韓国も含め、「ネットゼロ」を表明して環境問題に取り組む国々が増えるなかで、正しく行動を促進する役割を果たすインデックスにフォーカスした。

東京大学とともにインデックスの開発を行った Guido Schmidt-traub氏(国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク事務局長)らが、「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ指標」のグローバル・コモンズ保護への役割・重要性を訴えた。

この各国の状況や取り組むべきポイントがまとまった指標が、国の政策や企業活動で有効なツールとして社会に広がっていくことを期待する。

グローバル・コモンズの管理責任の実践とは?:社会・経済システム転換への挑戦

現在の地球の危機は、わたしたちの社会的・経済的システムによって大きな環境への負荷が地球にかかっていることから由来している。

人新世の時代を生きるわたしたちは、地球のシステムを維持するために経済のシステム全体を変える必要がある。

このディスカッションでは、とくに食料システムに焦点をあて、グローバル・コモンズを守っていくために、どのようなことを実際に取り組むことができるのか、モデレーターに世界資源研究所所長のAndrew Steer氏をむかえ、議論した。

それぞれの国で食料システムを転換した実績のある登壇者もむかえ、どのようにシステムの転換をしたかという実例や、農業のICT化や生産方法の見直しなど、持続可能なシステム転換のために実際にできることについてもさまざまな方法をあげながら議論。

セッションでは、システムのなかで、現在慣例となっているすべての行動様式を、環境への影響を考慮しながらコミュニティレベルから変化をしていく必要があることがわかった。

食料はとても身近なもの。社会・環境・行動などに問題があり、また広範に影響を及ぼすもの。身近だからこそ、個人レベルでもアクションをとりやすく、ひとり一人が野心的にこの問題に取り組む必要があることを再認識した。

グローバル・コモンズの責任ある管理のために、データは何ができるか?

デジタルテクノロジーによって人類は大きな発展を遂げてきた。これまでは物理的な世界での取り組みにフォーカスをしていたが、今後は「グローバル・コモンズ」の保護を推進するにあたっても、DX化をいかにすすめるかは大きなポイント。

SNS、ビッグデータ、AIなど、今日のデジタルテクノロジーをいかに活用できるかについて SystemIQ創立者 Jeremy Oppenheim氏を再びモデレーターにむかえ、話し会った。

近年のテクノロジーの進化は急速。サイバー・コモンズとグローバル・コモンズは、異なったコモンズの形だが、今後より融合が進んでいくことが予想される。

森林伐採の効率化などテクノロジーを活用することで改善されること、またインターネット環境の違いで生じる格差などのテクノロジーを利用することで生じる脅威とリスクについても触れながら、さまざまな分野の社会・経済システムのなかに、テクノロジーを導入することでグローバル・コモンズの保護を推進できることを議論した。

テクノロジーを活用しながら、人と地球がバランスを取り、共存することで、互いのシステムを保ち、幸福に暮らすことができるという提案で、Tokyo Forum 2020 Online 最後のパネルディスカッションが幕を閉じた。

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