北陸新幹線が石川県を貫くまで、あと2年。金沢~敦賀の開業と同時に、石川県内にできる新たな新幹線駅が、小松駅。

その小松市がいま、石川県の食生産者といっしょに「美食のまち」として魅力を発信し始めた。

その名も「小松美食バレー」。

石川県『北陸新幹線県内全線開業に向けた「いしかわ魅力”再発見”コンテスト」プロジェクト部門』採択事業の一環で、なかでもいま注目を集めるのが、「酒造りの神様」の異名を持つ農口尚彦の新たな酒蔵 農口尚彦研究所で展開する、ペアリングイベント「小松Saketronomy」(サケトロノミー)。

2019年3月から動き始めた同イベントは、これまで「メゾン・ド・タカ芦屋」高山英紀シェフ、「台湾 祥雲龍吟(台湾)」稗田良平シェフ、「レストランA.T(パリ)」田中淳シェフ、「西麻布 山崎」山崎志朗シェフを招き、このイベントでしか味わえないオリジナリティの高いペアリングコースを提供してきた。

高木シェフ渾身の料理11品と、農口尚彦研究所の日本酒11種類のペアリング

第5回目となる今回は、高木一雄シェフ(画面左)をむかえ、世界的な料理トレンドである「発酵」をテーマに、地元農産品をふんだんに使用した料理11品と、農口尚彦研究所の日本酒11種類のペアリングコースを提供した。

「今年で88歳、よろこばれる食中酒をつくろうと一生懸命。今回は、海外でも活躍する高木シェフの考えや話が大きな刺激になった。もっとよろこばれる日本酒をめざし、これからもつくり続けていきたい」(農口尚彦)

「今回のイベントを通し、興味深い食材をたくさん見つけることができた。創ったメニューは実際に芦屋の店でも使用したい。今後、生産者から直接購入する予定。本ペアリングコースで積極的に使用した「米麹」や「甘酒」などは、近年世界中のシェフの間で注目されている「日本の発酵食材」。友人の外国人シェフに教えたら絶対に喜ぶ」

そう高木シェフがいう、“特別なペアリングの景色”へ

LIMITED EDITION
NOGUCHI NAOHIKO 01 2017vintage
フランス本国の「ストゥーリア」公式creac誌でも紹介されているペアリング。農口尚彦研究所の最高峰。開業初年度に醸した日本酒の中で農口尚彦杜氏が選んだ最高のロットをボトリングした3年熟成のヴィンテージ限定酒を、5度の雪冷えで提供。

ストゥーリア
フレッシュキャビア ベルーガ
「日本酒とキャビアがどれだけ合うか、ゲストの皆様に知って欲しかった」と話す高木シェフ。日本初お披露目の「フレッシュキャビア ベルーガ」は、今回提供している「ストゥーリア」キャビアの中で最も、粒が大きく、脂分が強いのが特徴。ストゥーリアキャビア アジア担当のフランス人 ポーラン・リオ氏から直接取り分けてもらい食す、贅沢なペアリングとなった。

〈先付〉
YAMAHAI MIYAMANISHIKI 無濾過生原酒 2018vintage
ボタニカルなニュアンスが特徴の「美山錦」は、「金時草」を主役としたお料理とペアリング。お出汁の旨味とうまく調和させるために、旨味がちょうどよく引き出される温度、30度の日向燗で提供。

金時草とガス海老
石川県の食材「金時草」の御浸しから取った美しい紫色の出汁ゼリーが印象的なお料理。農口尚彦研究所の米麹から作ったシェフ特製「薄口醤油麹」に4日間漬け込んだ石川県の海の幸「ガス海老」の旨味と、お出汁の旨味が日本酒によって増幅された至高のペアリング。「生うに」と「フレッシュキャビア バエリ」がさらにコクをプラスしている。

〈椀盛〉
農口尚彦 88YEARS OLD Special Edition 2020vintage Vol.1
農口尚彦杜氏の88歳(米寿)を記念して発売された限定酒シリーズの第一弾。今期醸造されたばかりの若々しく、味も香りも落ち着いた限定品の新酒を温かい椀盛に合わせて40度のぬる燗にして提供。

牡丹鱧と加賀太胡瓜
「関西から来た料理人としてこの時期に鱧を味わって頂きたかった」と話す高木シェフ。「牡丹鱧」のふわっとした食感に、お出汁の旨味、「フレッシュキャビア オシェトラ」の脂分と酸味を、桂剥きにして添えられた石川食材の「加賀太胡瓜」の清涼感がすっきりと切ってくれている。農口尚彦研究所に隣接する有機農園、西田農園で朝採れの「黄色い花付き胡瓜」も彩りを添えている。爽やかな椀物と、新酒が絶妙にマッチしたペアリングとなった。

〈造り〉
JUNMAI 無濾過生原酒 2019vintage
「白身魚には純米酒」と話す高木シェフ。酒蔵近郊で収穫された「五百万石」のみを使用して造られたこの純米酒は、北陸の海の幸と相性が抜群。今回は「煎り酒」のベースにも使用したことでさらに好相性に。お造り同様に冷たい花冷えの温度帯(10度)で提供。

その日の魚の湯洗い
その日に石川県で揚がった4kgもある「ナメラ」を、日本酒を使った約50度のお湯で洗い氷水にとることでコリコリした歯ごたえを実現する「湯洗い」という料理技術。お醤油の代わりは日本酒とお出汁、梅干しを煮詰めて作る「煎り酒」。足りない塩味は「フレッシュキャビア オシェトラ」が補足し、わさびの代わりには、農口尚彦研究所に隣接する有機農園、西田農園の「からし菜」と能登で収穫された「ナスタチウム」の葉とお花を添えられている。カエルに見立てた「ウリ」が季節感を演出していた。

〈八寸〉
山廃純米 無濾過原酒 2017vintage
農口尚彦研究所が開業して初年度に醸されたデットストックの一本。農口尚彦研究所のラインナップの中で、最も味わい深いお酒。熱々の60度まで温めて山廃独特の複雑な旨味を引き出したことで、「バチコ」やパワフルな味わいが特徴の「フレッシュキャビア バエリ」と好相性なペアリング。温度が下がるにつれて赤イカのお寿司ともマッチする時間差マリアージュで提供。

赤イカ、一寸豆とバチコ
「ビオラ」の花を添えることで紫陽花に見立てた旬の石川食材「赤イカ」のお寿司に、「一寸豆」、胡麻と豆腐の白和えに、石川県能登の高級珍味として知られる「バチコ」を添えた美しい一品。

〈揚物〉
HONJOZO 無濾過生原酒 2019vintage
農口尚彦研究所の王道の定番酒は、揚物の繊細さを壊さぬように、一度72度まで温めてから、35度まで温度を下げる「燗冷まし」で提供。これによりアルコールの刺激と香りを抑えて、まろやかな味わいに落ち着かせることができ、「白子」と「白味噌」のクリーミーな味わいとの絶妙なマリアージュを実現。

ゴマふぐの白子と花ズッキーニ
この時期でも石川県で水揚げされている「ゴマふぐ」のフレッシュな白子を、「ズッキーニの花」に包んで揚げることで、サクサク感とクリーミーさが楽しめる。白味噌のソースがさらにコクをプラスし「フレッシュキャビア バエリ」が塩味で締める、至福の一品。

〈合肴〉
DAIGINJO 無濾過生原酒 2018vintage
「蟹には吟醸酒」と話す高木シェフ。香り高く、透明感があり、後味のキレが特徴の飲食店限定品の大吟醸酒は、石川県の海の幸「毛蟹」とペアリング。温度帯は15度の涼冷えにし、香りと旨味を引き出し、小松市の九谷焼人間国宝の吉田美統作の釉裏金彩の器で提供。

毛蟹と春菊
キャビア缶を器に使った合肴は、石川県で水揚げされた「毛蟹」と、農口尚彦研究所に隣接する有機農園、西田農園で収穫された「春菊」を出汁ゼリーで和え、その上に「フレッシュキャビア オシェトラ」「からし菜」「春菊の花」を敷き詰めた一品。

〈焼物〉
JUNMAI DAIGINJO 無濾過生原酒 2018vintage
通常肉料理には味の濃い日本酒を温めて合わせるのが王道だが、今回は「トマト」と「山椒」が、肉の脂分を感じさせない爽やかさを演出していることから、15度の涼冷えで透明感のある純米大吟醸酒を提供。南国のフルーツを連想させる華やかな香りを壊さない絶妙なペアリングとなった。

能登牛炭火焼き
石川県のブランド牛「能登牛」の、程よく脂のりした「いちぼ」部位を高木シェフ特製の「トマト麹」に漬け込むことでさらに柔らかく、爽やかな味わいに。一度低温調理して、その上で炭焼きにして山椒オイルをきかせて、「花山椒」「葉山椒」、農口尚彦研究所に隣接する有機農園、西田農園で朝採れの「ミニトマト」を添えた一品。

〈炊合〉
YAMAHAI GOHYAKUMANGOKU 無濾過生原酒 2018vintage
温かい炊合には、素朴でコクのある旨味が特徴で、根菜の滋味深い味わいとも好相性な「五百万石」を45度の上燗で提供。

加賀蓮根餅
石川県特産の「加賀蓮根」はつなぎを一切使わずに餅状にし、その上に輪切りの「新蓮根」、「フレッシュキャビア バエリ」が乗り、同じく石川県特産の旬の「鶴豆」が添えられた、素材の持ち味を生かした一品。
肉料理の後にほっこりとお腹を温めてくれる。

〈御飯〉
YAMAHAI AIYAMA 無濾過生原酒 2018vintage
優しい甘みが特徴の「愛山」は、敢えて5度の雪冷えで提供。キャビアをふんだんに盛り付けたキャビア御飯とまず合わせて、温度が上がってきた頃に、出汁茶漬けと合わせて頂く二段階ペアリング。

小松市産有機栽培米とメギスの出汁茶漬
農口尚彦研究所の有機栽培の「五百万石」も手がける小松市の護国寺農場が作る「有機栽培米」を土鍋で炊き上げ、その上に目の前で豪快に「フレッシュキャビア バエリ」を盛り付け一口。続いて石川県で水揚げされた深海魚「メギス」でとったお出汁をたっぷりかけて出汁茶漬けにして残りを頂く。お漬け物は、隣接する有機農園で採れた「胡瓜」を農口尚彦研究所の「米麹」で作った特製の「塩麹」に漬けたもの。

〈デザート〉
デザートを担当したのは、今回高木シェフのアシスタントを務めた糸井章太シェフ。現在、同じく兵庫県芦屋市にある「メゾン・ド・タカ芦屋」に勤務しており、20代ながら2018年に行われた「RED U-35」でグランプリに輝いた将来が期待される実力者。

LIMITED EDITION
NOGUCHI NAOHIKO 01 2017vintage
最初のペアリングでも使用した農口尚彦研究所の最高峰。開業初年度に醸した日本酒の中で農口尚彦杜氏が選んだ最高のロットをボトリングした3年熟成のヴィンテージ限定酒を、10度の花冷えで提供。

酒粕スフレ
農口尚彦研究所の「大吟醸の酒粕」と「ジャスミン」を使った華やかなスフレ。通常デザートでは「酒粕」は一度アルコールを飛ばして作ることが多いが、今回は敢えてアルコールを飛ばさずに仕上げ、華やかなLimited Editionとペアリングさせた。

PREMIUM NOUVEAU 無濾過生原酒 2020vintage
「最後の締めくくりに爽やかな甘酒とヨーグルトのアイスクリームと爽やかなお酒を合わせたかった」と話す糸井シェフ。PREMIUM NOUVEAUは、今期の第一号タンク。新酒ならではの爽やかさが特徴で、 10度の花冷えで提供。

甘酒ヨーグルトのアイスクリーム
『「発酵」をテーマにした今回の締めくくりに乳酸発酵の「ヨーグルト」と米麹発酵の「甘酒」で身体に良い締めくくりを』と話す糸井シェフ。農口尚彦研究所の「米麹」を使って作った「甘酒」の甘みだけで表現した爽やかなデザート。スイートアリッサムの花を添えた、見た目にも可愛い一品。

〈杜氏〉農口 尚彦 (のぐち なおひこ)
1932年石川県出身。「酒造りの神様」の異名を取る日本最高峰の醸造家のひとり。1970年代以降低迷を続けた日本酒市場の中で「吟醸酒」をいち早く広め、吟醸酒ブームの火付け役となる。また戦後失われつつあった「山廃仕込み」の技術を復活させ、山廃仕込み復権の立役者ともなった。全国新酒鑑評会では連続12回を含む通算27回の金賞を受賞。70年以上に渡る酒造り人生の中で数々の銘酒を生み出して来た。2017年11月より農口尚彦研究所の杜氏に就任し。現在に至る。

農口尚彦研究所 (のぐちなおひこけんきゅうしょ)
農口尚彦杜氏(88)の匠の技術・精神・生き様を研究し、次世代に継承することをミッションとして2017年11月に開業。ギャラリースペースや日本酒誕生の情景を愛でながらお酒を味わえるテイスティングルーム「杜庵(とうあん)」を併設。
https://noguchi-naohiko.co.jp/

おすすめ記事