一般社団法人日本電子機器補修協会(JEMTC)が主催する「全国電子工学系学校 脳トレゲーム制作コンペティション」をご存じでしょうか。若いクリエイターの育成と、シニア世代の認知予防・脳年齢活性化を目的として開催されている本コンペティションは、今年で第5回目の開催を迎えます。

2022年11月に開催された第4回目の同コンペティションに、東京都町田市にある玉川大学工学部ソフトウェアサイエンス学科の学生チームがエントリー。初出場ながら、優秀賞(全体得票数第5位)獲得という成績を納めています。

出場チームのメンバーは、いずれも玉川大学工学部ソフトウェアサイエンス学科4年生の、東郷峻平さん、瀧屋考平さん、上田拓未さん、中野恭汰さんの4名。今回、同学科のソフトウェア工学研究室 田中昂文講師にも同席いただき、改めて受賞の喜びやゲーム開発のプロセスについてインタビュー。同学科の魅力も含め、たっぷりお話を伺いました。

見たことのないような新しいゲームを作りたい

全国の四年制大学、短期大学、専門学校を対象に、脳トレゲーム(タブレットやPCで遊べるもの)を制作して競い合う、脳トレゲームコンペティション。1~4人のグループで1チームとなり、第4回大会では全体で260以上ものチームがエントリーしました。

東郷峻平さんはじめ4名の玉川大学チームが出品したゲームは、見事予選を勝ち進み、愛知県名古屋市で行われた決勝大会に出場。大会審査員、一般ユーザー、さらに特別審査員による投票を受けて、優秀賞を獲得しました。

写真左から瀧屋考平さん、東郷峻平さん、上田拓未さん、中野恭汰さん。

東郷さんら4人は、ソフトウェアサイエンス学科公認サークルで、オリジナルゲームの制作を行う「Tamagawa Game Creators(玉川ゲームクリエイターズ)」(以下、TGC)で共に活動するメンバー。TGCとして活動の実績を作りたいと考えていた昨年の夏、校内に掲示された脳トレゲームコンペティションの案内を見て、挑戦することに決めたといいます。

「コンペの出品に向けて、まず、前回開催時の受賞作品を見ながらどういうものを作ろうかメンバーと話し合い、『新しいもの、見たことがないようなゲームを作りたいね』と決めました。研究室の先輩や身近な友人にも話を聞きながら、数週間かけてアイデア出しを行い、ゲームの完成までは開発やテストの期間も含めてトータルで2カ月ほどを費やしています」(東郷峻平さん、以下同)

こうして完成したゲームが「両面神経衰弱」。トランプゲームでおなじみの神経衰弱をアレンジし、オリジナルのルールを設定。普通に遊ぶ神経衰弱よりも難易度をアップさせたゲームになっています。

「両面神経衰弱」のゲーム画面。プレイヤー同士での対戦またはCPUとの対戦が選択でき、枚数によって難易度が変わります。

<「両面神経衰弱」の遊び方>
・スペードとハートのトランプ26枚を使用した"両面"神経衰弱ゲーム
・トランプはシャッフルしたあと裏向きに13枚、その上に表向きで13枚を配置
(トランプが背中合わせで13組配置されることで、両面に数字がある神経衰弱になる)
・1人のプレイヤーが1ターンで2か所を裏返し、表になった2枚のトランプの数字が揃ったらポイントを獲得
(2枚が揃ったとき、裏返して表になったトランプは回収されるが、裏になった2枚はそのまま残る)
・2人のプレイヤーが交互にターンを繰り返し、盤面からカードがなくなった時点でポイントが高いプレイヤーが勝利

カードの裏表両面の数字を覚える必要があり、普通の神経衰弱よりも記憶する量が増えるため、脳トレの効果が期待できるというこのゲーム。記者もゲームの様子を見学させてもらいましたが、一見簡単そうに見えて1ターンごとに覚えておかなければいけないことが多く、普段は使わない脳の部分がジワジワと刺激されるような感覚を覚えました。

受賞の秘訣は、チームワークの良さ

「僕と中野くんはシステム開発、上田くんはシステム開発に加えて大会運営者とのやり取り、瀧屋くんはスタート画面やボタンなどのUI設計など、4人それぞれの役割分担を決めてゲーム制作を進めていきました。僕はシステム開発自体が好きなので楽しく取り組めましたが、『どうすればおもしろいゲームになるか』『どうすればシニアの方の脳トレになるのか』を考える時間はけっこう大変でしたね。提出日の直前、深夜にバグが見つかって、徹夜で直したこともありました」

大会に出場して印象に残っていることを尋ねると、東郷さんは「決勝で名古屋の会場に行き、『難しい』『おもしろい』など、一般ユーザーの方の意見を直接聞けたこと。自分たちの作品がどう受け取られたかを評価してもらう機会はなかなかなく、いい経験になりました」と話します。また、決勝大会当日に特別審査員に向けてゲームのプレゼンテーションを行った上田さんは「大きな会場で一般の方や審査員の方の前に立ってのプレゼンは、緊張しつつも新鮮さがあり、終わってから『楽しかったな』と振り返ることができました」と教えてくれました。

今回受賞できた大きな要因は、「メンバーの仲の良さ、チームワークの良さが大きかった」と断言する東郷さん。2020年春に玉川大学に入学した4人は、コロナ禍により授業もTGCの活動もすべてオンラインで、1年生のころは学生同士が集まる機会があまりなかったといいます。2年生になり、対面授業が再開されたころ、TGCのメンバーがこの4人しか残っていなかったこともあり、自然と4人で学生生活を過ごすことが増えたそうです。

「それぞれが意見を自由に言い合える関係ができあがっていたし、お互いの力量を把握して信頼もしていたので、『両面神経衰弱』の制作中も、意見が食い違ってケンカに発展するようなことは一度もありませんでした。それぞれの得意分野が活かされたことが今回の良い結果に結びついたと思っています」

4人とも将来的にはエンジニアやプログラマーを目指しており、それぞれゲームやインフラ、ハードウェアなどの分野に興味を寄せているといいます。卒業後は別々の道を歩むことになりますが、4人で一所懸命ゲーム制作に取り組んだ日々は、学生生活の中で忘れられない思い出のひとつになったに違いありません。

玉川大学の山﨑浩一工学部長は、ソフトウェアサイエンス学科の学生4名が脳トレゲーム制作コンペティションで受賞したことを受けて、下記のようにコメントしています。

「今回、有志学生チームによる初のエントリーで優秀賞を受賞できたことは、学生たちがゲーム制作に関する基本的な知識、技術力が修得できていることの一つの証です。外部で開催されるコンテスト等に挑戦することはとても有意義な試みです。この受賞を糧に、これからもさらなる高みを目指して、挑戦を続けてほしいと思います。また、今後は後輩達にも受け継がれて、毎年チャレンジが続くことを期待します」

プログラミング初心者でものびのびと学べる環境

4学科ある玉川大学工学部の中で、ソフトウェアやプログラミングに力を入れているのがソフトウェアサイエンス学科です。プログラミングを基礎にしつつ、「コンピュータ・ソフトウェア」「情報セキュリティ・モバイルネットワーク」「ゲーム・コンテンツ関連」「情報・数学教員」の4つの専門領域から複合的に学ぶことができます。

「自分が思っていることを言語化してプログラムに落とし込む、それがシステム開発の本質です。東郷くんら4人の学生はそれを実践できたからこそ、脳トレゲームコンペティション初出場で入賞という成果につながったと考えています」

そう話すのは、ソフトウェアサイエンス学科 ソフトウェア工学研究室の田中昂文講師。教育工学やソフトウェア工学を専門に研究していらっしゃいます。田中講師は、脳トレゲームコンペティション入賞を目指し奮闘する学生たちを見て、「『自分たちの作りたいもの』を最後まで完成させた経験を持っていることは、彼らにとって非常に大きな強みになったのでは」という感想を抱いたといいます。

ソフトウェアサイエンス学科の田中昂文講師(写真左端)とチームのメンバー。

「学生たちの話にもありましたが、外部の方たちに対して自分の作ったものの真価を問う機会というのは、なかなかないことです。短い期間に集中して本気を出してゲームを完成させ、自分たちのことを知らない人に使ってもらう、このプロセスを経験したことのある人とそうでない人とでは、ものづくりに対する視野の広さは大きく変わってきます。そういう意味でも、本学科としては今回が初出場でしたが、他の学生にもぜひチャレンジしてみてほしいですし、伝統的に出場を重ねていけたらいいなと思いますね」(田中昂文講師、以下同)

ゲーム制作ができるレベルとなると、それなりのプログラミングの知識や技術が必要になりますが、入学当初の時点ではプログラミング未経験という学生が意外にも多いのだとか。入学してすぐのプログラミングの授業でつまずく新入生も多いため、そうした学生をサポートするために、本学科では上級生に個別で相談ができる「チューター制度」を導入しています。チューター制度とは、学内アルバイトとしてチューターに選出された学生が、下級生に対してプログラミングや工学系科目の基礎をレクチャーし、学習支援を行うというもの。教授や教員に直接聞きにくいことでも、学生同士なら相談しやすいため、制度を活用する学生は多いといいます。

「チューター制度をはじめ、プログラミングを知らない人に対して手厚いサポートが受けられる環境ですし、セキュリティ、ネットワーク、AI、ゲームアプリケーション等、ソフトウェアの業界でもよく名前が挙がる、注目度の高い分野を幅広く学べる学科です。まだ『これがやりたい!』というものが決まっていない人でも、本学で学ぶうちに、きっと好きなものが見つけられるはず。ぜひ在学中に『これがやりたい!』と思えるものを見つけて、がんばってもらいたいですね」

インタビュー中も常に和気あいあいとした雰囲気に包まれていた4名の学生と、それを見守る田中講師。「ソフトウェアサイエンス学科は1つ1つの講義の内容が濃い。先生方と学生との距離が近く、丁寧に指導してもらえる」(東郷さん)、「『ちょっと大変だけど、がんばろう』と声をかけると、前向きに取り組んでくれる素直な学生が多い」(田中講師)と、それぞれが話すように、ソフトウェア工学という学問を通じて、指導者と学生の皆さんの間にたしかな信頼関係が生まれているようです。

関連リンク
https://www.tamagawa.ac.jp/college_of_engineering/software/

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